◆俳優・長本批呂士さん(33)=南風原町出身

 こちらが質問をするたびに、しばし沈黙が流れる。目を閉じ、一つ一つの問い掛けの意味を突き詰め、じっと考えを巡らす。これまでの歩み、そして自らの内面と向き合いながら。さながら、その道を究めんとするストイックな求道者だ。

「人に影響を与えられる作品をつくりたい」と話す長本批呂士さん=沖縄タイムス東京支社

 中学1年の時、南風原町の町民劇に主役級で出演したことが演劇との出会い。元来、人前に出ることが好きではなかった。「観客からお金をもらう以上、大人も子どもも舞台の上では同じ」。脚本を書いた黄金森劇団の新垣敏副団長(当時)の優しくも厳しい指導が忘れがたい。何より、作品のテーマが届き、客席と舞台が一体となった独特の空気感が深く心に刻まれた。

 埼玉県内の大学在学中にも印象深い思い出がある。子どもたちが演劇体験するワークショップが沖縄であり、指導員として夏休みに帰郷した。いじめを受け自殺願望がある子、少年院を経験した子、障がいのある子。さまざまな境遇の子が作品づくりに没頭した。

 1カ月後、子どもたちの生活態度に変化があった。学校側が「何があったのか」と驚くほど前向きに。その子の潜在的な可能性を引き出せたことがうれしかった。演劇の持つ魅力にますます引き込まれた。

 大学卒業後、高い競争倍率をくぐり抜けて入ったのが新国立劇場(東京)の演劇研修所。役者エリートの養成機関として名高い。研修生は毎月6万円の奨学金をもらい、芝居に専念しやすい環境が与えられる。

 「あの3年間は自分の財産。役者としての幹になっている」。日本舞踊、ダンス、アクション、狂言、演劇史。一流の講師陣からあらゆる分野を体系的に学ぶ。

 演技の技術や素養を身に付けられたが、技量があれば舞台に出られるかというと、そうとも限らない。名の売れたタレントが集客力を見込まれて起用される場合もある。新国立出身者の抱える“ジレンマ”だ。

 それでも、舞台に懸ける情熱はいささかも衰えていない。「有名・無名を問わず、人間が何を感じ、どう生きたいのかを伝えられるものが良い作品。明日から頑張ろうと思える作品に出たいし、つくりたい」

 役者人生を歩む中、沖縄に生まれた意味も意識する。「ある芸術家に『沖縄の人は死者とともに生き、グソー(あの世)の時間が流れている』と言われ、まさにそうだと感じた。形のないものを大切にして、命を燃やしていく文化がある。その精神性を演技に投影していきたい」。ウチナーンチュのアイデンティティーが言葉に満ちていた。(東京報道部・西江昭吾)=連載・アクロス沖縄<95>

 ながもと・ひろし 1985年、南風原町生まれ。駿河台大学卒業後、2007年に新国立劇場演劇研修所に入所。修了後はテレビ、映画、舞台などで活躍している。今月13~21日は川崎市で舞台「三人姉妹」に出演中。来年1~2月は新国立劇場で、井上ひさしが描き下ろし、約半世紀ぶりの公演となる音楽劇「どうぶつ会議」に出演する。