ガジュマルとフクギ並木がつくる木陰を抜けると右側に石垣が現れる。中央にある門をくぐって進むと、琉球王国屈指の石造建築・玉陵(たまうどぅん)が姿を現す

▼大勢の観光客でにぎわう首里城からわずか100メートル。国王たちが眠るこの場所は対照的に静かだ。秋雨前線が去り、青空が広がった日に訪れるとバスガイドの研修に出くわした

▼「首里城のような華やかさはないが、琉球の歴史を伝える大切な場所」。講師の解説を若いガイドたちが熱心にメモしていた

▼首里の文化財からは琉球王国と沖縄戦が刻んだ二つの歴史が学べる。7年前、沖縄戦をモチーフにした新作能「沖縄残月記」の出演者が稽古前に訪ねた場所の一つが玉陵だった

▼演出した能楽師の清水寛二さんが戦場の凄惨(せいさん)さを実感してほしいと、若手能楽師を案内した。「人も文化も、戦争は容赦なく破壊する」。作品には戦火の中を逃げ惑う女性が登場する。墓室の壁面などに残る弾痕から、砲弾が飛び交う様を感じてほしいとの思いだった

▼墓の上に鎮座する2体の石獅子は文化復興の象徴でもある。沖縄戦で倒壊し何者かに持ち出される寸前だった獅子は、後に沖縄タイムスを創刊する豊平良顕さんたちが1946年12月に首里郷土博物館に運び込み、収蔵物とした。国宝指定を機に、玉陵の持つさまざまな歴史が注目されるといい。(玉城淳)