トランプ米大統領が、米国と旧ソ連で交わされた中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄する方針を表明した。

 東西冷戦時代の1987年、レーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ共産党書記長との間で締結された条約である。80年代末の冷戦終結を後押しし、核軍縮の潮流をつくった画期的な合意だった。

 核兵器を削減する史上初の条約は、米ソが地上配備の中・短距離核ミサイル(射程500~5500キロ)を88年から3年以内に、全廃すると定めた。実際に91年までに両国で計2692基を廃棄する成果を上げた。

 オバマ前政権が打ち出した「核なき世界」からの方針転換である。トランプ政権は2月に新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表。爆発力が低く「使える核兵器」といわれる小型核や、海上発射型の核巡航ミサイルの開発を盛り込んだ。条約の破棄はその流れの中にある。

 米国の破棄の背景には米ロの相互不信がある。

 米軍は昨年3月、ロシアが地上発射型巡航ミサイルを配備したのを初めて確認したと発表。条約に違反していると指摘する。一方、ロシアは米国がルーマニアなど欧州に配備したミサイル防衛(MD)システムは巡航ミサイルを発射する攻撃兵器に転用可能だとして違反と主張している。

 破棄には6カ月前の通告が必要とされ、ロシアを訪れているボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が伝えるとの見方も浮上。米国が条約を破棄すれば、ロシアばかりでなく中国も核軍拡競争に陥る恐れがある。冷戦時代に逆戻りしかねない。

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 条約を締結したゴルバチョフ氏は米国の破棄方針を「誤りだ」と批判。条約が破綻すれば「米ソの核軍縮に向けた全ての努力を崩壊させる」と警告した。

 ロシアは「世界をより危険にする」と破棄方針に懸念を表明した。トランプ氏に条約に縛られず中距離ミサイルを開発していると批判された中国は「中国を言い訳に使うことは完全に間違っている」と反発した。

 ドイツも、条約が軍縮に有効で「とりわけ欧州各国の国益にかなうものだ」と、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国と対応を協議する考えを示した。

 日本はといえば菅義偉官房長官が記者会見で「米ロの動きを注視したい」と述べるだけで、腰が引け、政府の方針が見えないのである。

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 日本は唯一の戦争被爆国である。米国の「核の傘」の下にあるのも事実だが、本来なら核軍縮に向け国際社会の先頭に立たなければならない。

 条約は欧州における核戦争回避が主な目的だったが、米国が破棄した場合、米、ロ、中が核軍拡競争に突入し米軍基地が集中する沖縄にも影響が出る恐れが払拭(ふっしょく)できない。

 米国が北朝鮮に非核化を求める一方で、自身は条約を破棄し核開発を進めるのは整合性がとれない。国際社会を不安定化させるだけである。

 日本政府は米国の顔色をうかがい追随するだけでなく、破棄を思いとどまらせるよう働き掛けるべきだ。