沖縄戦のみならず、国策によって移民させられた県民の戦争体験については、これまで多くの市町村史で紹介されてはきたが、本書に登場する方々は、おそらく初めて口を開いたのではないかと思えるほど、過酷な歴史をくぐり抜けてきたことがうかがえる。

法廷で裁かれる南洋戦・フィリピン戦 被害編(高文研・5400円)

 飢餓、引き揚げ船の沈没、日本軍による壕の追い出し、「玉砕」、親族の死、戦争孤児…。5年前、南洋戦・フィリピン戦で凄惨(せいさん)な体験をした民間人生存者45人が、戦死した肉親や自らの身体的・精神的障害に対し、国家の謝罪と損害賠償を求めて那覇地方裁判所に提訴した。しかしながら、「基本的人権救済の最後のとりでであるべき裁判所が、司法の責務を放棄したものといわざるを得ない」ほど、今年1月に出された那覇地裁の請求棄却の判決は不当性を帯びたものだった。それを明確にすると共に、「日本軍の残虐非道な行為」や、すさまじいまでの被害体験を記録するために刊行されたのが本書である。

 住民の被害の実態を含め、南洋諸島・フィリピン群島の地理や歴史、住民被害の概要、行政法学者・西埜章氏による判決の批判的検討、そしてこの戦争の検証など、沖縄住民を取り巻く南洋・フィリピンの戦争を網羅した1冊となっている。とりわけ、資料編に記述された「本書関連の用語解説(人物編、軍事・法令関係編)」は、戦後世代への道しるべとして、最も特徴的といえそうだ。

 「日にち薬」という言葉がある。どんなにつらく悲しいことがあっても、歳月の経過とともに心の傷が癒やされるというもの。しかし戦争体験はそうはいかない。それが、原告の精神的被害の実態を明らかにした、精神科医・蟻塚亮二氏の診断結果だ。戦争が終わって73年もたつのに、約3分の2の方が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など心の傷に苦しめられている。それでもなお、当時のつらい思いを語った証言者の勇気に感服しつつ、その方々の「思い」に寄り添い、弱者切り捨ての司法に敢然と立ち向かう弁護団に心から敬意を表したい。(宮城晴美・沖縄女性史家)

 【著者プロフィール】ずけやま・しげる 1943年、南洋諸島パラオ・コロール島生まれ。弁護士。南洋戦・フィリピン戦被害・国家賠償訴訟弁護団長