私は普通じゃない。私は優れた才能を持っている! そんな気がしてしまった日から悪夢は始まる。地球上、自分でアーティストだと名乗れば誰でもいつからでもアーティストだ。うそも本当もない。ただ「自分は唯一無二なのかどうか。天才なのか」その問いは常につきまとうはずだ。

「黙ってピアノを弾いてくれ」

 自称天才音楽家のチリー・ゴンザレスのドキュメンタリー。芸術と呼ばれるものへの理解が乏しい凡人にとって、異様な映像の連続だ。もちろんピアノも弾いている。が、エキセントリックなことを叫び続けている印象が強い。

 音楽というより、音楽という名のパフォーマンス。アート的な用語では「前衛的」とでもいうのだろうか。新しいパフォーマンスに挑戦し続けるゴンザレスの映像は、天才を自称した男が紡ぐ悪夢の物語のよう。ただ、その物語は凡人にとってひたすら楽しい。(桜坂劇場・下地久美子)

桜坂劇場で10日から上映予定