昨年出版された写真集「沖縄1935」の中には、糸満で撮影されたあどけない少年漁師の姿が多い。沖縄市の介護施設で暮らす男性(91)もそんな少年の一人だったのか。年代的に写っていても不思議ではない

▼幼少期に「糸満売り」された離島出身の元漁師。戦後は遠洋漁業やパヤオ漁で活躍したという。認知症を患い、生活保護を受けていて、頼れる身寄りはない

▼この男性の後見人に、市内の吉田由美子さん(67)が那覇家裁から選任される見通しとなった。預貯金管理や福祉サービスの手続きなどを代行し、生活を支援する

▼親族でも専門家でもない第三者の「市民後見人」。ニーズが高まるが周知は十分でなく、吉田さんが県内初となる。市社協の養成講座で必要な知識を学び、社協の仲介で男性と信頼関係を築いてきた

▼「学校に行けず母もいないかわいそうな人間だ」と自身の半生を振り返る男性に、吉田さんは「でも頑張って生きて良かった」と応じた。一人一人が歩んだ個人史の集積が、沖縄社会の歴史なのだと痛感した

▼一昨日、吉田さんの訪問に男性は笑顔を見せ、おやつや飲み物をおかわりした。「今日は元気で食欲がある」と驚く施設職員。吉田さんが「おいしい?」と尋ねると、男性は親指を立てて喜んだ。制度が生む新たな人の縁もある。広がりに期待したい。(田嶋正雄)