韓国政府が元慰安婦を支援する「和解・癒やし財団」を解散し、事業を終えると発表した。日韓合意の「白紙化」ともいえる一方的な解散は、和解の芽を摘むものだ。

 文在寅(ムンジェイン)大統領は「合意の破棄や再交渉は求めない」との立場だが、その説明は分かりづらく、理解に苦しむ。

 日本軍「慰安婦」問題を巡り日韓両政府は3年前の2015年、「最終的かつ不可逆的な解決」で合意した。

 日本は軍の関与と政府の責任を認め、安倍晋三首相が「おわびと反省」の気持ちを表明。合意に基づいて翌年、韓国政府が設立した財団に10億円を拠出した。

 その財団が担ったのが、拠出金を元手に慰安婦だった女性らに現金を支給する事業である。合意時点で生存していた元慰安婦の7割以上に当たる34人が「癒やし金」を受け取った。

 一定の成果があったといえるにもかかわらず、なぜ今、財団を解散するのか。

 文氏は昨年5月の大統領選で、日韓合意見直しを公約に掲げ当選した。合意を朴槿恵(パククネ)前政権による「積弊(長年積もった悪弊)」と位置付けたのだ。

 韓国政府は財団に残る日本の拠出金を自国予算に置き換え、日本が関与したとの印象を薄めようと考えているようだが、日本としては困惑せざるを得ない事態である。

 10億円は日本がその責任を認め、政府予算から拠出したものであり、合意の核となる部分だからだ。

 韓国政府には今回の決定を日本国民に対してもきちんと説明してもらいたい。

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 問題の原点は、政府間合意が発表された当時の岸田文雄外相の言葉に集約されている。

 慰安婦問題について「軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と指摘し、「日本政府は責任を痛感している」と述べたのだ。

 しかし日本国内ではその後も、「慰安婦は職業としての売春婦だった」など合意を覆すような暴言が政治家の口から飛び出している。

 雑誌では「嫌韓」感情をあおるような特集が目立ち、在日コリアンに対するヘイトスピーチも広がっている。

 韓国で慰安婦合意の再交渉を求める世論が根強くあることと、日本国民の間で合意が共有されていないことは無関係ではないだろう。

 両国関係に突き刺さったトゲを抜き取るという歴史的合意の原点を見失ってはいないか。

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 元徴用工訴訟で韓国最高裁が日本企業に賠償支払いを命じるなど、日韓関係が冷え込んだ中での財団解散発表だった。 

 慰安婦問題はこのままだと和解の機会を失い、日韓両国も不信と対立の悪循環から脱却できなくなる。

 懸念されるのは、政治問題が文化交流など民間交流に影を落とすことだ。

 日本政府が合意の履行を求めるのは当然だとしても、この問題は国民感情を刺激しやすいだけに、冷静に対応していく必要がある。