沖縄科学技術大学院大学(OIST)は12日から、毎月第2金曜日午後6時半~7時半、ジュンク堂書店那覇店で「OIST科学者による衣食住にまつわるサイエンストーク」を開く。入場無料。本番に先立ち、講演する研究員の取り組みを、OIST広報担当者が紹介します。

芭蕉布の繊維を研究する野村陽子博士(OIST提供)    

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 2015年、夏。OISTに着任した野村陽子博士は、それまで米西海岸でバイオテクノロジー関連の研究に従事していた。赴任直後は沖縄の暑さにまいり、夏バテ寸前だった。

 クーラーがなかった昔、人々はどのように暮らしていたのだろうかと疑問を持ち、文献を当たってみた。すると、琉球王国時代、庶民から王様まであらゆる階級の人々が、夏には芭蕉布を着ていたことが分かった。この布に秘密があるに違いない、と思ったのは、大学時代の専攻が被服学だったから。もともと繊維や布に興味があった。

 さらに調べると、芭蕉布は壊れやすいバナナの繊維100%からなり、その布から着物が作れるのは、世界広しといえども琉球列島だけという。芭蕉布の特殊性を探るべく、研究を始めることにした。

 ところが、芭蕉糸のサンプルが手に入らない。昔は各家庭で織られていた芭蕉布も、現在組織的に制作しているのは大宜味村喜如嘉だけ。「喜如嘉の芭蕉布」は国指定の重要無形文化財で、県を代表する伝統工芸品だ。上質で美しい布は、高価だが人気があり、常に品薄状態なのだ。

 喜如嘉の芭蕉布は、20以上もの長い製造工程全てを織り手たちが伝統的な手作業で行っている。原料となるイトバショウ(バナナの一種)を3年ほどかけて栽培するのも織り手の仕事。高齢化、過疎化などによる従事者の減少、イトバショウ不足を抱え、一人の研究者の純粋な科学的興味に応えるための芭蕉糸が入手困難だったのも理解できる。

 喜如嘉で話を聞いた野村博士とOISTのスタッフは、芭蕉布が存亡の危機にあると感じた。それならばむしろ芭蕉布の優れた機能を明らかにして、より多くの人々に芭蕉布の魅力を訴えるべきだと確信した。

 OISTの最先端の電子顕微鏡を用いた研究は、脈々と受け継がれてきた制作工程によりイトバショウ繊維の優れた機能を最大限生かした、唯一無二の芭蕉布が生まれることを科学的に証明した。

 野村博士らは、9月22日に「ここからの芭蕉布、これからの芭蕉布」と題したシンポジウムをOISTで開き、全国の自然布の重要性や芭蕉布製造の現状などについて語った。全国から約130人が集まり、関係者は芭蕉布の未来に手応えを感じた。(OIST広報メディアセクション・大久保知美)