「沖縄料理店に入って何が一番悲しいかって、ハブが泡盛に漬かった姿を目にすることだね」。そう語るのは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスティーブン・エアド博士。ヘビ毒の研究者だ。

研究室でハブから毒液を採取するスティーブン・エアド博士(OIST提供)

 米国オハイオ州やテネシー州、メリーランド州で過ごした幼少期、両親と妹弟5人家族の話題の中心は、自宅で飼育する動物たちのことだったという。飼っていたのは犬や猫ではない。エアド家の「動物園」には、カエルやトカゲ、ワニ、ヘビ、カメが計100匹以上いて、日のよく当たる2階の両親の寝室は、ヘビたちの寝床だったという。

 大学は、モンタナ州立大の動物学部に進学。米国の作家ジョン・スタインベックが「私はモンタナと恋に落ちてしまった」と述懐したほど、自然の美しい場所だ。

 在学中の1971年4月に、その後の研究者としての人生を決定付ける出来事に遭遇する。同じ学部の先輩からヘビがすみつく古い井戸があると聞き、友人と探しに行くことに。自転車で片道40キロ、何時間も歩き続けた末に、もうこれで終わりにしようと岩の洞窟をのぞいたところ、目の前と左右の方向から3匹のガラガラヘビが同時に現れた。毒ヘビにかまれるかもしれない恐怖心は一切なかったという。エアド博士はこの体験をきっかけに、ヘビの研究に没頭していく。

 ヘビはその姿や、獲物を死に至らす殺傷性を理由に、とかく嫌われ、駆除されることが多い。だが、無毒のヘビもいれば、毒液の中に含まれる有用な成分が医療に応用されることもある。例えば、ブラジルに生息するマムシ。血圧を急激に低下させ、獲物が気を失って動けないようにする毒液中のタンパク質の働きを利用して、血圧低下を促進する高血圧治療薬が開発されている。

 ヘビの毒から抽出したタンパク質は、手術で患部を縫合する時に必要となる組織接着剤としても使用される。また、毒中のペプチド成分はモルヒネ以上の効果があるものの、中毒性のない鎮痛剤の開発に応用できることも報告されている。

 毒ヘビとの遭遇からもうすぐ50年。米国、ブラジル、メキシコ、そして日本と、文字通り地をはうように研究を続け、今では沖縄に生息する10種のヘビの名前を日本語で言えるようになった。9日午後6時半から、ジュンク堂那覇店で開かれる「サイエンストーク」で、エアド博士は「沖縄のハブ」をテーマに講話する。サプライズも用意しているので、ぜひご来場いただきたい。(OIST広報メディアセクション・名取薫)