大宜味村喜如嘉の「芭蕉布今昔展」に足を運んだ。日ごろは着物や織物と縁のない生活でも、伝統ある工芸品は見る者を魅了する。作品の美しさだけでなく、そこに息づく人々の暮らしぶりまで浮かぶ▼だが、布を生み出す道のりは長い。糸芭蕉を切り取る作業から23工程。地道な作業や体力勝負の場面など、根気のいる職人技に嘆息し今更ながら先人の知恵、継承者の苦労に頭が下がる▼会場で織物・染織文化論が専門の、ひろいのぶこ京都市立芸大教授の講演を傾聴した。日本、世界各地を回り、人間と布や繊維の関わりを研究する同教授が染織を志したきっかけは、京都の博物館で見た芭蕉布の軽やかさ、美しさだったそうだ▼確かに展示された芭蕉布の着物は風通しがよさげで、沖縄の風土にぴったり。独特の文様に「カジマヤー(風車)」「ナミガター(波形)」「ジンダマー(銭玉)」など愛嬌(あいきょう)ある名前があると知り、楽しくなった▼同じ糸芭蕉が原料の「芭蕉紙」にも見入った。微妙な色あいで染め上げられた独特の味わい。琉球で生まれた芭蕉紙は明治時代に一度、途絶え、1970年代に復元された▼急激な時代の波に流されず、沖縄の文化や伝統を守る人々の努力に敬服しつつ、こちらは何ができるかと考える。芭蕉紙で手紙でも書いてみようか。(儀間多美子)