ケイスリーCEO 幸地正樹さん(37)=那覇市出身

 〈お金だけじゃない世界を作る〉。経営する会社「ケイスリー」の自社サイトのトップページは、最上部にこう書かれている。続く言葉は〈社会的価値を可視化し、循環を加速させる〉。2016年に起業した時の信念が短いフレーズに凝縮している。官民がウィンウィン(相互利益)の関係で、世の中の課題を解決に導く枠組みの中核を担う。

「社会的課題の解決のために、新しいことをしたい」と話す幸地正樹さん=東京都内

 国でも地方自治体でも、行政機関が何かをする場合によく使うのが、知見を持つ民間事業者に丸ごと委託して事業費を渡すという手法。うまくいけばいいが、得てして、行政側は事業の「実施」に力点を置き、肝心な「成果」は曖昧という構図に陥りかねない。そこから脱却する新たな枠組みづくりが「ケイスリー」の本業だ。

 具体例が、民間資金を活用した成果連動型の「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」という仕組み。10年に英国で始まった。事業の流れは「行政から委託された事業者が、資金を民間投資家から調達」→「事業の成果を第三者が評価」→「成果に応じて行政が対価支払い」となる。

 行政は効率的に予算支出でき、成果が上がれば投資家も金銭的リターンを得る。必然的に、受益者である住民も質の高いサービスを受けられる。「初めてこの考えに出合った時は衝撃を受けた。何に予算を使うかではなく、住民のための最善策は何か、に意識を変えられる」と語る。

 17年度に始まった東京・八王子市の大腸がん検診受診率向上事業では、受診率19%という目標を上回る26・8%を達成。広島県の尾道市など6市は、国内で初めて広域で同様のSIB事業を行うと決めた。

 SIBは欧米を中心に海外で広く浸透している。前例踏襲を重んじる日本も、今年6月に閣議決定した「未来投資戦略2018」に盛り込まれ、前向きな機運が出つつある。医療に限らず介護、就労、教育など幅広く応用でき、沖縄でも那覇市などで検討が進む。

 「ワクチン接種など、成果が容易に見込めるものは不向き。成果の出ないリスクや、地域ごとに成果のばらつきがある事業に向いている。世の中の新たな課題を先取りしてやりたい」

 日本人で初めて米スペースシャトルに乗った宇宙飛行士、毛利衛さんに憧れた幼少時代。人見知りだったが、黙々と何かに打ち込む子どもだった。「人と違ったことがしたい」。内に秘めた望みがあった。今まさに、その思いが社会で実を結び、大輪の花を咲かせようとしている。(東京報道部・西江昭吾)=連載・アクロス沖縄<100>

 【プロフィール】こうち・まさき 1981年、那覇市生まれ。沖縄尚学高を経て、東洋大学経営学部への進学で上京。卒業後は求人広告などを手掛けるリクルートに入社。その後、外資系の「PwCコンサルティング合同会社」に移り、中央官庁や地方自治体など行政部門を担当する。2016年3月に「ケイスリー」を設立。琉球大学非常勤講師も務める。