私設博物館の先駆けである沖縄市の諸見民芸館は、研究者や骨董好きを魅了してやまない。農具あり、生活雑貨あり、戦争資料あり。3万点を超える収蔵品が所狭しと並ぶ
▼焼き物類で目を引くのは、沖縄を代表する古陶の一つである地元の知花焼。釉薬(ゆうやく)をかけない素朴で力強い肌合いは、いにしえの庶民生活のにおいを感じさせる
▼知花焼は、琉球王朝時代から現在の同市知花を拠点に作られた。1682年に壺屋へ窯場統合されたものの、一部の陶工が壺や甕(かめ)などを作り続けていたとみられている
▼高名な美術家の中川伊作さんも1972年に工房を構え、知花焼に通じる独特な「南蛮焼」に情熱を傾けた。アカショウビンのさえずりや比謝川のせせらぎが、創作意欲をかき立てたのだろうか
▼この伝統ある知花焼を復興させようと、陶芸家や研究者によるシンポジウムが今週開かれた。知花で活動していたこともある陶芸家の金城春光さんは「薄手の陶器を焼ける質のいい土が眠っている」と、地場産業としての成長に期待する
▼現在は住宅も増え、陶土の確保は簡単ではないかもしれない。しかし、嘉手納基地や弾薬庫には手付かずの土が大量にある。ここを利用する手はないだろうか。廃弾処理の煙より、登り窯の煙の方が歴史ある工芸文化にはふさわしい。(鈴木実)