1920(大正9)年に沖縄本島や先島で採録され、現在でも聞くことができる音源としては最古とみられる歌謡の録音が、京都市の大谷大学図書館に収蔵されていることが31日までに分かった。日本語の起源の研究で大阪から訪れた言語学者の北里闌(きたさとたけし)氏が、蓄音機で蝋管(ろうかん)レコードに記録していた。現在はすべてカセットテープに再録され、音質に優劣はあるが、八重山のとぅばらーま、宮古のトーガニ、琉球古典音楽の茶屋節など15曲余りが聞き取れる。伝統芸能に詳しい元琉球大学教授の大城學さん(65)は「大変貴重。今後の琉球古典音楽や(歌唱法などの)民謡研究、芸能史研究などに役立つだろう」と話している。(学芸部・粟国雄一郎)

北里闌氏が残した蓄音機。台の横幅約33センチ、高さ15・5センチ、奥行き24センチ。集音器(ラッパ)の直径は30・5センチ(大谷大学図書館提供)

北里闌氏が残した蝋管レコード。直径約5・5センチ、高さ約10センチ(大谷大学図書館提供)

北里闌氏

北里闌氏が残した蓄音機。台の横幅約33センチ、高さ15・5センチ、奥行き24センチ。集音器(ラッパ)の直径は30・5センチ(大谷大学図書館提供) 北里闌氏が残した蝋管レコード。直径約5・5センチ、高さ約10センチ(大谷大学図書館提供) 北里闌氏

蝋管レコードに採録

 大谷大学に収蔵されている蝋管は約240本。北里氏が20~31年までに、沖縄、台湾、フィリピン、東北、北海道、樺太などを調査した際の資料群で、うち17本が沖縄関連とみられる。本紙が同図書館から音源利用の許可を受け、複数の専門家に分析を依頼した。

 曲目が分かったのは、八重山がとぅばらーま、月ぬ美(かい)しゃ、こーねまーぬ父、鷲の鳥節、与那国の猫小、亀久畑節。宮古はトーガニ、正月ぬアーグ、根間の主、豆が花、東里ムーナカ。本島は茶屋節、国頭さばくい、ナークニーなど15曲だった。

 名護での録音とみられ、歌声は聞き取れるが曲名が判明しない曲もあった。また歌謡の説明とみられるが単語が聞き取れる程度だったり、雑音が激しいために聞き取れない音源もあった。

 北里氏は調査の様子を著書「日本語の根本的研究」(紫菀會、1930年初版発行)に記している。同書によると各地で歌謡を録音した理由について「(昔からある歌は)比較的時代を超越して、昔の音がそのままに聞かれる。子守歌もあればぜひお願いしたい」と説明している。

 高知大学の高橋美樹准教授(音楽学)によると、沖縄で現地録音され、現在も聞ける最古の音源は、音楽学者の田辺尚雄氏による1922(大正11)年の八重山民謡「ジラバガヌ・ソウ・ソウ・ジラバ」とされてきた。

 【ことば】蝋管レコード 表面にろうが塗り固められた円筒形の録音媒体。蓄音機にセットし、針を押し当てて円筒を回転させ、溝を刻んで音声を記録する。再生する時は振動板に直結した針で音の溝をなぞる。トーマス・エジソンが1877(明治10)年、円筒に巻いた錫箔(すずはく)に音の振動を刻む録音・再生機を発明。87~88年に電話機の発明で有名なグラハム・ベルやエジソンによって蝋管蓄音機に改良された。その後、音声が明瞭で廉価な平円盤式レコードの普及により需要は衰退した。