「サッカーボールを夢中で追いかけてたら国境越えちゃった」。そんなユニークな作戦でナチス占領下のフランスからユダヤ人の子ども数百人を脱出させた男性、ジョルジュ・ロワンジェさんが108歳で亡くなった。年末のニュースの中で目に留まった

▼中立地スイスとの国境に建つサッカー場。持ち上げ可能なフェンスをくぐれるようにした所にパスを送り、子どもたちはボールを追いかけて国境越えに成功したという

▼フランスのユダヤ人家庭に生まれ、ナチスに捕まったが収容所から脱出。抵抗組織に参加し、親が殺されたり収容所に送られたりした子どもの援助活動を担った

▼葬式参列者に扮装(ふんそう)させて国境に行き、墓掘り人が使うはしごで脱出させる方法も編みだしたという。牧歌的とも言える手法だが、かえって警戒されにくく有効だったのかもしれない

▼監視や密告をかいくぐった知恵としたたかさには学ぶべき点が多い。緊迫した社会情勢下でもユーモアを忘れない姿勢に共感し、勇気づけられる

▼ユダヤ人難民を救ったことではドイツ人実業家のオスカー・シンドラーや日本人外交官の杉原千畝が有名だが、困難な時代状況で自身が「できること」に力を尽くした個人は少なからずいた。そういう先人たちの営みの続きを生きている。新年の始まりに胸に刻みたい。(田嶋正雄)