その昔は、かがしとも呼ばれた。髪の毛や獣の肉、布きれを焼いて串に刺し、その悪臭で田畑から鳥や獣を追い払った
▼ご先祖の不気味さと比べると、こちらはずいぶんと物腰が柔らかい。パパイアの幹に絡むハブのかかしの姿に噴き出してしまった(7日付本紙)。樹上からカラスをにらんでいるのだけれど、二つに分かれた赤い舌さえもユーモラス
▼鳥や獣による県内の農作物の被害は、年間2億円余り。その6割近くがカラスの仕業。銃を構える県猟友会会員のジャケットの色を覚えて近寄らなくなり、防鳥ネットの下から潜り込む。関係者は、その知恵者ぶりに驚く
▼タンカンやシークヮーサー、パイナップル…。北部の被害額は全体の6~8割を占める。県と市町村は昨年、農家が捕獲したカラスを1羽千円で買い取る事業に乗り出している
▼本土の都市部では、ごみ捨て場を荒らし、自転車のかごから菓子パンを奪い、ときには人間を襲う。天敵のタカを使って追い払うサービスまでも登場した。鷹匠(たかじょう)がビジネスに励む時代になった
▼あの黒装束は農家には脅威の対象だ。かかしとの化かし合いを外から眺め楽しむ場合ではないのかも。だが田舎でも都市でも生ごみがカラスを呼び集めると指摘される。害鳥と名付けたのは私たちであることを忘れずにいたい。(具志堅学)