もう30年近く前になる。青春時代を過ごした北関東の公立中学校では、朝礼や下校時に日の丸や校旗を掲揚する習わしだった
▼いったん校歌が流れ始めたら、全員ただちに掲揚台に向かって直立不動。うっかり廊下でも歩いていようものなら、先生に容赦なく張り飛ばされた
▼実は私は掲揚係の一人。「世界一美しい」と教えられた旗を扱っていると、何だか自分まで偉くなったようでこそばゆく、雨上がりの日には泥で汚さないよう気を使った。愛国教育にどっぷり漬かった身だからこそ、「安倍カラー」の教育改革が持つ吸引力が怖い
▼教科書検定基準の見直し、道徳の教科化、領土教育の徹底。安倍政権は、戦後教育の大転換に次々と手を付け始めた。正も負も含めて多面的なはずの歴史が、「誇らしい国」といった物語に塗りつぶされつつある
▼教育委員会改革を柱とする地方教育行政法改正案は、今国会に提出される見通しとなった。教育委員会への首長の権限が拡大すれば、教育の中立性は失われかねず、首長が変わるたびに教育内容が二転三転する危うさをはらむ
▼教科書採択をめぐり、竹富町教育委員会への国の圧力も強まっている。本来自然に芽生えるはずの愛国心を強制するような無粋な振る舞いが、目指すべき国のあり方なのだろうか。(鈴木実)