ある時は秘密基地、ある時はお昼寝の場所。押し入れにはどこか懐かしい子ども時代のにおいが漂う。布団を引っ張り出して親に叱られても、それはきっと幸せな記憶に違いない
▼この女の子にとってはしかし、不安で寂しい空間だっただろう。弟たちの世話をしに来てくれたファミリーサポートセンターの支援員さんに見つからないよう、暗闇でじっと息を潜めた。下の子たちの分しか払うお金がないからと、仕事に出掛ける母親に言い含められたらしい
▼県内ファミサポ事業の先駆者である與座初美さんに聞いた母子家庭の話である。子どもはもちろん、生きるためにそうせざるを得なかった母親の心情も痛ましい
▼旧来の地縁血縁が薄らぐ中で、夜間の預かりや生活相談まできめ細かく対応してくれるファミサポは、制度のはざまで孤立しがちな一人親家庭や育児疲れの親にとって「駆け込み寺」。一方で1時間600~700円の利用料を払えない人も少なくなく、本当に困っている人が使えないという矛盾も抱える
▼與座さんが理事長を務めるNPO法人はファミサポ利用料を肩代わりする券を発行しているものの、希望者は年々増え、寄付や会費では追いつかない状態が続く
▼押し入れで隠れているかもしれない「あの子」に、どうしたら手が届くだろうか。(鈴木実)