東京や横浜の図書館・大手書店で「アンネの日記」やそれに関わる書籍が破られる事件が相次ぎ、警察が捜査を始めた。ユダヤ人迫害に関係する本が集中的に狙われていて、世界に衝撃を与えている
▼ジャーナリストの池上彰さんは『世界を変えた10冊の本』(文春文庫)の中で、「聖書」「コーラン」「資本論」「種の起源」などの古典と並べて、「アンネの日記」を取り上げている
▼第2次世界大戦中、ナチスの迫害を逃れてアムステルダムの隠れ家で暮らしたユダヤ人の少女アンネ・フランクが書き残した日記で、世界的ベストセラーでもある
▼ナチスの恐怖におびえながらも、少女らしい夢や好奇心をつづった文章は胸を打つ。「わたしの望みは、死んでからもなお生きつづけること!」の一文に、うなずいた人も多いはず。そのアンネの夢や希望が、再び引きちぎられたようで悲しい
▼忘れてはならない歴史を伝える象徴的な本を切り裂くのは、そこに書かれた歴史を否定する行為である。誰が、なぜの疑問は尽きないが、破られた本の代わりにと関連本を寄贈する市民の動きに気持ちが救われる
▼社会のさまざまな場面で、理不尽な「暴力」が露出し始めている。ささやかではあっても一人一人が自分の中に「抵抗の砦(とりで)」を築いていくことが大切だと感じる。(森田美奈子)