東京・富岡八幡宮の本殿わきに大相撲の歴代横綱のしこ名が刻まれた「横綱力士碑」がある。高さ3・5メートル、重さ20トンの御影石。1900年に建てられた碑は、角界の頂に立つ者の存在感を表しているかのよう

▼初代明石志賀之助から数えて72人。最近は奉納土俵入りに合わせ、新横綱自らのみを握り、名を彫ってきた。一番最後に刻銘された稀勢の里は「見本になる力士になれるよう努力したい」と語った

▼あれから1年半。ここまで引退が惜しまれる力士もそういない。たとえ黒星が続いても、久しぶりの日本出身横綱を応援したいという心情が働く

▼左腕を負傷しても休まず、劇的に逆転優勝した2年前の春場所。美談として語られがちだが、元貴乃花親方のように結果的に力士生命を縮めた。強行出場で良かったのかと考えるのは無粋というものか

▼あの春場所で優勝争いをした大関照ノ富士もその後、過酷な相撲人生をたどる。けがに苦しんで休場が続き、番付は三段目まで降格。来場所はさらに序二段へ落ちる。幕内優勝経験者が幕下以下になった例はない。引退せず復帰を目指すのは相撲への愛着か、勝負師の意地か

▼国技館の土俵では変わらず熱戦が続く。がむしゃらに上位を狙う若手。惜しまれ土俵を去る横綱。底辺でもがく元大関。勝負の世界で人間模様が交差する。(西江昭吾)