■幻想のメディア SNSの民主主義(2)第1部 何が起こったのか
〈翁長雄志の家のテレビはどこの製品でしょうか〉
〈翁長雄志は、パンツは何派?〉
2014年10月、翁長雄治さん(31)=那覇市議=の父雄志さんが県知事選に立候補した。大学卒業後に沖縄で就職していた雄治さんは父を応援するため、20代の支援者たちと一緒に、動画配信サイト「ニコニコ動画」でインターネット番組を制作、放送した。
デマを逆手に
番組制作で心掛けたのは父の人柄を面白おかしく伝えること。前年13年の米軍オスプレイ配備反対の東京デモ行進以来、デモの先頭に立った父がネットで〈反日〉〈売国奴(ばいこくど)〉とたたかれているのを逆手に取った。
「ネットの中傷にむきになって反論するよりは、ポジティブに向き合うほうが良い」
大学生だった頃、ネットで繰り広げられる言説だけを根拠に国会議員への批判を発信し続けた自らの体験も重なった。「簡単に批判できるのは知らないからだ」。ネット上に流れる情報をうのみにする危険性を実感していた。
父が知事に就任すると「攻撃」は家族にも及ぶようになっていた。
〈翁長知事の娘は中国人と結婚している〉
15年の県議会、代表質問に立ったある議員が父に「ちまたで知事は中国と親しいとされている」と質問した。ネットの情報をうのみにした質問であることは明らかだった。
これに対し「なぜ僕が中国と仲が良いと思うんですか?」と議場で問い返した父の言葉が印象に残っている。根拠のない情報をうのみにする議員の姿勢を毅然(きぜん)と批判したものだった。
思いは伝わる
そんな父が急逝した18年秋、雄治さんは再び県知事選にかかわる。玉城デニー候補(当時)の支持者の会の青年局長となり、ツイッターで玉城候補が掲げた子育て政策などを繰り返しツイートした。
政策を届けたい先は若者世代や幼い子どもを育てる親たち。訪れた先では若い女性から「ツイート見てますよ」と声を掛けられ、メッセージが確実に届いていることを実感した。
同じネット上では玉城候補に対する真偽不明の情報「フェイクニュース」も出回ったが、それでも雄治さんはSNSの役割に展望を見いだしている。
「その場にいない人たちにも思いや意見を届けることができる。僕たちが発信し続けることで、沖縄の基地問題も県外や国外の人に伝えられるはず」(「幻想のメディア」取材班)
[ことば]売国奴 売国行為をする者に対する侮蔑語。何をもって売国とするかは個人の政治的信条で異なるため、明確な定義はない。近年は国策を批判する人々に対し、インターネット上で使われることがある。