イラストも筆者

 それは、マーケット対象である顧客自身が「挑戦」し始めているという現象だ。宿泊業を例にとると、「Airbnb」(エアービーアンドビー)がまさにそれにあたる。民宿業ははるか昔からある産業だが、これほどまでに拡散力をもって動きだした背景には、マーケットである顧客がもっと効率のいい宿泊を求めたことがある。その需要に対して、「空き部屋」というインフラを持った別の顧客が、Airbnbという窓口を通して直接つながった結果である。

 私はAirbnbが日本に進出する数年前に、とある大手企業に同じようなサービスを提案したことがある。Airbnbが簡単に日本市場に進出することが予想できたため、すでに宿泊業でブランド力のある日本企業に似たようなビジネスモデルを提案したのだ。宿泊業における日本のテリトリーを守りたい気持ちがあったからだ。事業計画に賛同を得て、私のほうから様々な収益シミュレーションを提出した。これに対し、「経営戦略室」という部署から、自社のルールを反映したシミュレーションが返ってきた。

 ここまでは理想的な展開だったが、シミュレーションの中身に問題があった。そこには、顧客同士がもめた場合、仲介する立場としての労務費、賠償費用、顧客離れを最大値でマイナスとして反映。2件の利用があれば、そのうち1件がクレームになるとの見込みが記されていた。当然、赤字事業になるしかない。

 ここには2つの大きな矛盾が存在する。1つ目は、2件につき1件のクレームが起きるということを何を根拠に出しているのか。2つ目は、クレーム対応に対しての労務費、賠償費用について、固定給で支払われている雇用形態が反映されてない点だ。この2つの矛盾を指摘すると、経営戦略室の担当者はこう答えた。「一般的な企業のビジネスにおいてもクレームは10%以上発生する。民間同士の貸し借りであれば、2件につき1件のクレームは出るだろう」と。さらに、クレーム対応にかかる労務費や賠償費用については、その会社のルールだということでうやむやにされた。

 クレーム比率は教育やインフラ整備で回避できることを説明し、労務費に関しては正確な算出が必要だと意見すると、「上層部と話してくれ」「社長と話してくれ」とそれ以上のやり取りを保留にされた。社長とのミーティングの日程調整を依頼したまま、すでに5年以上がたってしまった。最近になって、その社長とプライベートで会う機会があった。5年前のミーティングの依頼にまだ返答をいただいていないと告げると、「そんな報告はもらったこともない」と困惑顔で謝罪された。このようなエピソードは読者のみなさんの身近にあるのではないだろうか?

 今後の日本国内および世界のマーケットは、Airbnbのように、需要と供給を直に結ぶマーケットになることがさらに拡大することが予想され、今もその動きは加速している。米国の配車サービス企業「Uber」(ウーバー)が提供しているタクシー事業や配達サービスが代表的な例となるだろう。韓国では「Kakao」(カカオ)がタクシーはもちろん、飲食配達、買い物代行、運転代行など幅広い事業を展開。これまであった事業者を通さず、インターネットの中間斡旋サービスを介して個人事業として行われている。 

 Uberは日本国内の進出にも積極的で、Kakaoも「カカオトーク」を使ったマッチングサービスを急拡大している。Kakaoの場合、モバイル専用の銀行である「Kakaobank」を持ち、3年ほど前からすでにキャッシュレスに対応するなど、「挑戦」し続けている。

 2社とも、これらのサービスを構築するために「挑戦」と「失敗」を繰り返し、サービス提供が軌道に乗った現在でも改善に向けた試行錯誤を続けている。Uberは特に日本の既存のタクシー、宅配業界においては脅威になることが予想される。攻撃的ともいえる「挑戦」を続けているからこそ、世界中で存在感を高めているのだ。皮肉なことに、AirbnbやUberなどが、存在感を高め急成長している背景には、顧客が自ら提供している巨大なデータ(ビックデータ)が元になっているということだ。データにも著作権は存在する。しかし、データに国境は存在しないため、日本の巨大なマーケットデータが日本企業ではなく、海外企業の物になっている。そう、「挑戦」をしなかった故に、日本は自分から市場を手放している状況なのだ。

 このように、「挑戦」には、自分自身への「挑戦」が含まれる。マーケットが自ら動き出す現代において、ITの技術によって、個人でも簡単に営利活動に「挑戦」することができる。企業が「挑戦」することに腰が重いほど、ライバル企業にではなく、顧客に負けてしまう世の中なのだ。

 日本企業が「挑戦」しない理由は、シミュレーションですぐ分かるほど、文化を変えるという「挑戦」を避ける傾向、リスクを大きく見積もって安定性を必要以上に優先する傾向、そして、なにより「リスクヘッジ」を、「リスクがあるからやらないこと」と取り違えて実行しない傾向要因がある。「リスクヘッジ」は直訳すると「危険性を避ける」になるが、本当の意味は「リスクを想定して最小限のリスクを背負えるように調整」することだ。リスクを避けてやらない選択は、可能性を避けるというリスクを全部背負うことになるため、リスクヘッジができてないこととなる。

 コンサルティングを行っていると、リスクヘッジの意味の取り違いで、結果に大きな差を生む現状はそう珍しくもない。また、あらゆることを想定して自分から挑戦する意欲を強制的に排除する行動もよく見られる。私はそれを「脳内シミュレーション」と呼んでいる。

 「脳内シミュレーション」の例えとしては、仕事仲間や上司に、こういうビジネスはあの人は好かない、どうせコミュニケーション取れない、などと可能性を自分から閉じてしまうことを挙げられるだろう。日本は特にこの思考が多く、なんでもやってみるという文化がなかなか生まれない。しかし、若者と中心に動きを取ることもあり、幸いなことに若い挑戦者がまだ存在することが救いである。

 私には日本人の妻との間で生まれた小学校1年生の息子がいる。日本の公立小学校に通う彼に、友達関係や学習、生活などにおいて、何にでも、挑戦し続けるように口酸っぱく言っている。最初はできなかった縄跳びは連続100回跳べるようになり、難しいゲームも1人で簡単に1面をクリアするなど、成長が見えることに何よりも喜びを感じる。この親としての当然の行為が、企業経営者やオーナーにできないはずがない。また、日本企業が小学校1年生以下の「挑戦力」しか持ち合わせてないはずがない。もっと冷静に「挑戦」すべき事項を割り出し、経営陣やオーナーと議論しながら、顧客にマーケットを取られることのない企業にするべきではないだろうか。経営陣やオーナーであれば、リーダーシップを発揮して新たな領域に「挑戦」するべきではないだろうか。