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奪われたものを奪い返す闘い 直木賞「宝島」が描く戦後の沖縄 執筆を一時中断した作者の覚悟

2019年1月24日 06:00

 米軍統治下の沖縄で生きる若者たちを描いた小説「宝島」(講談社)で直木賞を受賞した真藤順丈さん(41)が22日、東京都内で沖縄タイムスのインタビューに応じた。詳報は次の通り。(聞き手=東京報道部・西江昭吾)

沖縄タイムスのインタビューに答える真藤順丈さん=22日、東京都文京区の講談社

沖縄タイムスのインタビューに答える真藤順丈さん=22日、東京都文京区の講談社

沖縄タイムスのインタビューに答える真藤順丈さん=22日、東京都文京区の講談社
沖縄タイムスのインタビューに答える真藤順丈さん=22日、東京都文京区の講談社

現代の問題として照射

 ―今回の受賞は沖縄でも反響が大きい。

 「うれしい。書店の売り切れが相次いでいるというニュースを見てウルッときた」

 ―執筆のきっかけは。

 「もともと沖縄には強い関心を持っていた。今まで自分の小説で扱ってきた題材は、近現代史やアジア史が多かった。大きな歴史の動きの中で登場人物が動いていく。講談社から出た小説『畦と銃』では、地方の農業、林業、畜産業といった第1次産業を題材にした」

 「今までのものが下地になった上で、日本が敗戦から経済成長し、今の状態になっている成り立ちで、戦後の沖縄に何かこぼれ落ちている、私たちが目を向けなければいけない大事なものがあると感じていた。そういう時代を描いたような、わりとリアリズムに基づいた小説がほかになかった。沖縄を舞台にした小説だと、ファンタジーや純文学は多い。一番根本にあるもの、今の国のかたちの原点を探ってみたかった」

 ―なぜ「戦果アギヤー」に焦点を当てたのか。

 「琉球警察を調べるうちに戦果アギヤーの存在を知った。彼らは米軍の物資を奪って生活の糧にしていたが、奪われたものを奪い返していると僕は捉えた。戦争や時代に奪われたものを奪い返す。それを小説全編を通して書きたかった。非常にたくましく、生命力にあふれていて、心が震えるようなものを感じた」

 「沖縄に限らず、世界中で起きていることに、そういうところがある。なぜ社会や国家に搾取されていくのか。それを奪い返すための闘いは、米国で起きている人種差別的なこともそう。本来みんな持っていたものを、ある一部から取り上げ、それを取り戻すことは、今いろんな問題に言えることではないか。それをフィードバックし、現代の問題として照射していけるのが小説として目指すべきところではないか」

「消えた英雄」を探す話

 ―「リアリズム」という言葉もあったが、小説「宝島」には実在の人物や出来事が盛り込まれている。

 「実社会との接点をいくつか作ることによって、よりリアリズムが増し、自分たちのこととして読める。小説は『消えた英雄』を探すという話。英雄の面影を追い続けるのか、それとも、新しく自分たちが英雄になるのか。瀬長亀次郎さんや屋良朝苗さんら沖縄の英雄たちを出したかった。(米高等弁務官の)キャラウェイも英雄とは違うが、仰ぎ見られる存在だった。英雄って何だろうと考えながら書いていた。ほかにもたくさん出したい人はいた。小那覇舞天さんも出したかったが、ちょっと時代が合わなかった」

 ―しまくとぅばや琉歌がふんだんに使われている。

 「小説の一つの大きな挑戦だった。僕は沖縄にルーツがあるわけではない。戦果アギヤーは金網を超えて基地へ越境していく。僕の中での越境は沖縄人になることだった。できる限りの精いっぱいの勉強や、フィールドワークを積み挑戦してみようと思った」

 「構想は7年前で、第1部を書いて2年ほど中断し、最後の3年で一気に書いた。同時に調べ物をしつつ、辞書も読みつつ、沖縄の人が書かれた小説を読んだりして、自分の中で沖縄の言葉を取り込んでいった。沖縄でのフィールドワークは歩き回ること。皆さんがゆんたく好きだから、飲食店などで話し掛けると、話を聞かせてくれたりする。主にコザを回った」

自分のことのように

 ―なぜ執筆を一時中断した?

 「『越境』していく覚悟がまだできていなかった。ヤマトゥンチュが沖縄の歴史をなんでやるんだ、という話になるのではないかと。当事者性の問題だ。自分が矢面に立ち、総力戦で生み出した物語だと、議論の場に出ると決めた。沖縄の外の人間が書くことで沖縄に対する問題に皆さんが目を向けるきっかけになることもあると思った」

 ―基地問題は過去から続く地続きの問題でもある。

 「歴史的な背景の無理解、無関心が一番ある。『本土』の人たちが知らない。もっと言えば沖縄でも、若い人たちの中に知らない人が出てきている。どんな形であれ、忌避することなく、陰でうわさするのではなく、表立って議論するのを目指すべきではないか」

 「(戦後沖縄で)悲劇的な出来事の中でも人々は生きていた。カチャーシーを踊り、恋愛感情を交わし、普通の人々の普遍的な営みは行われていた。それを追体験し、登場人物たちと感じていくことで自分のことのように考えられる、というのが小説の役割だと思う。(戦後の)20年間を一緒に走り抜ける感じを目指したかった」

 ―題材からして話が重くなりそうなところ、軽快感がある。特に(口語調の)括弧書きの部分にウチナーンチュの気質が出ているように思う。

 「ありがとうございます。そこを直木賞の選考委員にも評価してもらったのはうれしかった。小説における『語り』の形を模索してきた。沖縄の物語だからこそ出てきたと言えるかもしれない。ゆんたく好きで、いろんな人たちが横から口を出してくるような(笑)。この時代の人たちは、たくましさ、底抜けの明るさ、ユーモアがある。そこの方がむしろ表現したかった。最終的にたどり着くのは『あきさみよー』という島の歓喜の歌じゃないけど、素晴らしさをうたい上げるところにいきたかった。『語り』がなければ到達できなかったと思う」

あれは「市民革命」

 ―辺野古問題や今、焦点が当たっている県民投票はどう捉えている?

 「奪われたものを奪い返すというところで、戦果アギヤーに集約されると思う。1票は『声』。その声を奪わないでほしい。(沖縄と政府が)なぜ対立しているのか東京に住む人が分かっていない。なぜ知事が先頭に立っているのか、考える一助になれば。『宝島』では、例えば(教員の政治活動を制限する)教公二法を(反対する住民が)はねのけたシーンも書いている。全てつながっていることだから知ってほしいと思うし、考える材料になるのではないか」

 ―米兵の人身事故をきっかけに住民が米国人車両を焼き払った「コザ騒動」が一つのクライマックスになっている。あそこにコザの魂があると考えた?

 「僕はそう捉えた。歴史的にみれば不穏な事件であるだろうが、僕は戦果アギヤーの台頭から、一つの時代の結晶というか、最終的な帰結だと思う。中央・支配側からみると『暴動』だが、あれは要するに『市民革命』だと思う。時代と国が変われば『市民革命』と呼ばれるものではないかという気持ちがある」

 ―沖縄県民へのメッセージは。

 「読んでどう感じたかは、すごく知りたい。ぜひお声を聞かせてほしい。感想を(講談社の)編集部に送っていただければ全部目を通します。今回はひときわ気になる。賛否あると思うので、賛否両方とも聞きたい」

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