沖縄において、精神障害者が長い期間に渡り人権無視の過酷な状況に置かれていた実態を取材した貴重な証言集である。その源流は1918年に東京大学医学部精神科の呉秀三教授が著した「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其ノ統計的観察」という報告書にある。

消された精神障害者(高文研・1620円)

 沖縄では壮絶・無残な地上戦の影響もあり、精神障害の有病率が高いと言われている。加えて、沖縄戦後に米軍の占領統治に置かれたため、60年に琉球精神衛生法が制定されても私宅監置が許容され、72年の「施政権返還」まで不正常な事態が続いた。「沖縄の精神障害者は沖縄に生まれたという三重の不幸を背負っている」(66年の沖縄精神衛生実態調査団長)というように、100年前に呉秀三が「二重の不幸」と告発した状況よりひどいありさまであったことが分かり慄然(りつぜん)とする。

 取材で出会った関係者の手元に、米軍統治下の沖縄へ派遣された精神科医が調査の際に撮影した私宅監置の患者の写真が預けられていた。プライバシーの問題から公表できない写真だったが「それらを引き出しにしまい続けてよいのか…」と苦悩した著者の思いが文章全体に込められている。記録メモにそって調査する中で、十数例の証言が得られ、そこに閉じ込められた当事者も登場した。「多くは高齢であるか亡くなっており、調査取材はぎりぎりのタイミングだった」と言う。

 その成果をまとめ、2018年4月に那覇で、犠牲者の顔を出しての写真展が開かれた。6月にはNHK「ハートネットTV」の「消された精神障害者」という番組もTVディレクターである著者の腕により成立する。このプロセスで明らかになったのは、「ロウヤ」と言われた「私宅監置」遺構が“村の恥”という意識として今も存在している事であった。沖縄県や那覇市の資料を見ると、行政が関わる「公営監置所」の存在も明確に記録されている。

 橋本明・愛知県立大学教授が「研究者とは違う語り口で私宅監置を描くことができた秀作」と高く評価しているが、全く同感である。(中橋真紀人・映画「夜明け前」プロデューサー、一般社団法人障害者映像文化研究所常務理事)

 【著者プロフィール】はら・よしかず 1969年名古屋市生まれ。フリーのテレビディレクター。2005年から沖縄を生活拠点にする。主な作品に「戦場のうた~元“慰安婦”の胸痛む現実と歴史」「Born Again~画家正子・R・サマーズの人生」など