「あいっ、みーどぅーさぬ(久しぶりだね)」。ジーンズのポケットから手を出し、私の肩を叩(たた)いたときのいたずらっぽい表情が今も脳裏に残る。会うたびに、琉球古典音楽の胡弓奏者・又吉真也さんは気さくに声を掛けてくれた。64歳での急逝が今も信じられない

▼1度だけ胡弓という楽器の難しさを語ってくれた。10年以上前、知人と入った那覇市のミュージックバーで、ばったりと出くわした時のことだ

▼ビールを飲みながら「胡弓は旋律がはっきりしているから、歌三線の邪魔にならないようにしないと」「自分たちの音が、めーないめーない(目立とうと)したら、全体が台無しになる」

▼1時間ほど話した後、こちらの勘定まで支払って、「今度、ゆっくりね」と颯爽(さっそう)と席を立った。演奏会などで会い「また飲もう」と誘われたこともあったが、残念ながら酒を酌み交わす機会には恵まれなかった

▼8日には東京行きの飛行機で乗り合わせたばかりだった。目的地は同じ横浜能楽堂。又吉さんは出演者、こちらは取材者として。9日の組踊「執心鐘入」公演が最後に聴いた演奏となった。舞台後のレセプションで、ちゃんとあいさつができなかったことを、今にして悔やむ

▼亡くなった後、体調を崩しがちだったと聞いた。「元気に酒飲んでる?」。あの人なつっこい笑顔には、もう会えない。(玉城淳)