映画監督、佐藤純弥さん(86)が亡くなった。「未完の対局」「敦煌」など大作を多く手掛け、北極やシベリアでの困難な海外ロケも多かったという。北京原人が現代によみがえるという突っ込みどころ満載の“迷作”も忘れ難い

▼代表作「新幹線大爆破」(1975年)は爆弾を仕掛けられた超特急が止まれず、速度も落とせずに疾走するノンストップ・サスペンス。海外でヒットし、後のハリウッド映画「スピード」の基にもなった傑作だ

▼犯人グループの1人に沖縄出身の19歳の青年が登場する。集団就職で上京したが都会になじめず、社会の底辺で生活をつないでいる。犯罪に手を染めることはないにせよ、当時就職先で同じような苦境にいた県出身者は多かったのではないか

▼作品は犯人たちの心情を丁寧に描き、世相を映し出す。新幹線が高度経済成長の象徴だとすれば、時代に取り残され、排除された犯人たちは繁栄の陰で生きている

▼終盤、高倉健さん演じる主人公が、亡くなった青年の実家に送金しようと「沖縄県西原村」と宛先を書く。実直に生きようとして挫折した若者の無念がにじむ

▼時代にほんろうされ続ける沖縄の歩みを重ねる人もいるかもしれない。天下国家を語る高邁(こうまい)な論ではなく、娯楽作品の中で描かれる痛切な群像だからこそ、胸にしみる。(田嶋正雄)