首相官邸が報道室長名で、菅義偉官房長官の会見で特定の記者の質問を「事実誤認」とし、文書で内閣記者会に「問題意識の共有」を申し入れていた。記者会は「質問を制限することはできない」と伝えたほか、新聞社の労働組合でつくる「新聞労連」は「申し入れは国民の『知る権利』を狭めるもので、決して容認できない」との声明を発表した。申し入れは、記者が質問する権利を制限しようとする行為で、撤回すべきだ。

 事の発端は昨年12月26日の官房長官会見。東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者が、名護市辺野古の新基地建設で同14日から始まった土砂投入に関し「埋め立ての現場では今、赤土が広がっている。琉球セメントは県の調査を拒否し、沖縄防衛局が実態把握できていない」などと質問した。これに対し菅官房長官は「そんなことありません」と一言返しただけだった。

 官邸側が記者会に「沖縄防衛局は埋め立て材(土砂)が仕様書通りの材料と確認している」など望月記者の質問は事実誤認とする申し入れ書を提出したのは2日後だ。

 しかし実際には、土砂投入後「性状が確認できない土砂が投入されている恐れがある」として調査を求めた県に、防衛局は「(土砂は)確認した上で使用している」と回答し、立ち入り調査を拒否している。望月記者の質問が事実誤認との指摘は当たらない。

 官邸の申し入れは、気に入らない質問をする記者を排除し、それに対して記者会の同意を求めることに等しく、著しく不適切だ。

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 検証記事を掲載した東京新聞によると、菅官房長官の記者会見では約1年半にわたり、望月記者の質問を、会見の進行役である報道室長が何度も遮ったり、質問を制限したりする行為が繰り返されている。

 今回の申し入れが、こうした異様な会見の延長線上にあることは明らかだ。

 西村康稔官房副長官は申し入れについて「質問権や知る権利を制限する意図は全くないと官邸報道室長から報告を受けている」と釈明した。

 だが、望月記者は「文書は私や社への精神的圧力だ」と反論している。

 政府は自由党の山本太郎参院議員の質問主意書に対し「一方的に質問を制限できる立場になく、その意図もない」とする一方、「質問を簡潔にまとめたり、質問数を絞ったりするよう協力を求めることはある」との答弁書を閣議決定した。

 質問制限を事実上容認する回答で到底納得できない。

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 安倍晋三政権下では、河野太郎外相が、記者会見で日ロ平和条約交渉についての記者の質問を繰り返し無視する前代未聞の対応で批判を浴びたことも記憶に新しい。政権の中に、国民への説明責任を軽視する雰囲気がはびこっていないか。

 記者会見は事実確認をする場でもあり、報道機関の務めは権力を監視することだ。記者の質問に応じるのは、官邸や政治家の義務であるということを肝に銘じるべきだ。