口では「丁寧に説明し理解を得ていきたい」と言いながら、実際は、地元名護市の感情を逆なでするような手法の繰り返し。埋め立てに反対しているのだから話しても無駄だと言わんばかりの強硬姿勢である。
名護市辺野古の埋め立て工事に向け沖縄防衛局は、資材置き場として使う辺野古漁港の使用許可など6項目を11日付で名護市に申請した。
沖縄防衛局職員が名護市に書類を届けたのは11日夕方。名護市には何の事前連絡もなかった。申請書は5月12日までの回答を求めている。
期限まで1カ月しかない。なのに担当職員は閉庁間際に来て書類だけを置き、説明もせずに、そそくさと帰ってしまった。環境影響評価書を県に提出したときも、未明の不意打ち搬入だった。
それだけではない。名護市長選の直後に防衛省は、埋め立て工事や作業ヤード設置などの調査・設計を行う業者を選定するため、入札を公告した。市長選で示された移設反対の民意は一切考慮されなかった。
危機的なのは、国と地方自治体のこのような関係が異常であるという政治的な感度すら、政府の中に失われていることである。
仲井真弘多知事による独断的な埋め立て承認が、政府の錦の御旗になっているのは間違いない。だが、辺野古移設を前提にした軍備強化によって中国に対抗するという考えは、安倍政権の思惑に反して、東アジアをいっそう不安定にする恐れがある。
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沖縄にとって普天間問題は、「市街地の普天間から過疎地の辺野古に移すのだから負担軽減になる」という単純な話ではない。
敗戦と米軍占領。サンフランシスコ講和条約による日本本土からの分離と、米国の排他的統治。日本の主権の及ばない米軍支配の下で建設された膨大な基地群と、おびただしい基地被害・人権侵害。そして復帰後も続く過重負担。
世界にも例のない沖縄基地問題の象徴になっているのが普天間の移設問題なのである。
世界の名だたる知識人が辺野古移設反対の声明を出したのは、この問題が国際化したことを如実に示している。
稲嶺進市長は、地方自治体に与えられた各種の権限を最大限に行使し、移設に反対していく、との姿勢を崩していない。一方、政府は辺野古移設を「唯一の選択肢」だと指摘し、「方針が変わることはない」と強調する。真っ向対立の様相だ。
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対立と衝突がエスカレートすれば、国内のマイノリティー(少数派)に対する弾圧と受け取られ、国連の場に持ち込まれる可能性もある。
年老いた地元女性が暴力的に排除される映像が世界に流れれば、政府の主張は国際社会で正当性を失うだろう。
生物多様性の豊かな海に米軍基地を建設すれば、それだけで世界の環境団体の反発を招く。安倍晋三首相の歴史認識、集団的自衛権へのこだわり。こうしたいろいろなことが普天間問題とからみ、移設を難しくするだろう。