日本の植民地時代の「朝鮮」から連行され、戦時下で過酷な労働と「性奴隷」を強いられた「従軍慰安婦」「軍夫」と呼ばれる人々がいる。ここ沖縄の地でも、名前も知られず、戦後も「見えない」存在として葬られたままの彼/彼女らの痕跡を、在日朝鮮人3世である著者が、歴史の暗闇にかすかな光をともすようにしてたどった渾身(こんしん)の書である。

明石書店・4536円/お・せじょん 1974年青森県生まれ。一橋大学大学院言語社会研究科博士課程修了。琉球大学人文社会科学部准教授。主な著書に「リズムと抒情の詩学-金時鐘と『短歌的抒情の否定』」

 先に出版された韓国生まれの研究者ホン・ユンシン著『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』(2016)の成果のうえに本書は、『県史』『市町村史』、新聞記録、個人史、回顧録等、数少ない資料を駆使、慰霊碑を訪ね、記録碑文に記されあるいは記されることのない彼/彼女らへの排除と差別を丹念に読み解く。俎上(そじょう)に載せられるテーマはどれも切実だ。不備多き「日韓条約」(1965)の問題。1人の人間を「~人」として囲い込み差別の下層に位置づけ、ゆえに「不可視化」された彼/彼女らの歴史のいきさつを、戸籍制度による排除の問題として考察した第2章は、人権意識もあいまいに労働者としてのみ外国人を呼び込もうとする現在の日本の外交作法への警鐘ともなるもの。「日本人」に対してだけでなく、「沖縄人」による「内なる他者」「朝鮮人」への加害性と、自己正当化する語りへの批判には手を抜かない。

 とりわけ深い感銘を残すのは、「朝鮮」と沖縄の「はざま」で生きる象徴的存在として、「朝鮮人」差別をも訴え、東京タワー占拠事件(1970)を起こした富村順一の抵抗の思想のラディカルさに触れた第4章と、戦後も沖縄で生活し「慰安婦」であったことを初めてカミングアウトした、ぺ・ポンギさん登場の意義を説く第5章。強調されるのは、長い植民地支配の歴史を棚上げにしたまま「15年戦争」「沖縄戦」というくくりのみで語られ、恣意(しい)的な分断の価値観(「北」と「南」)で他者化された人々を単純に批判することの乱暴さだ。それら雑ぱくな議論を問い直すことこそが、現在のもつれた日韓関係を解きほぐす唯一の糸口になるはずなのだが。

 日本の植民地支配のもたらした「朝鮮人」たちの歴史の「恨」を解く思索と行動が、今将に沖縄戦の犠牲のうえにさらなる犠牲を強いる権力への抵抗運動の導きともならんことを、一読者として願う。(崎山多美・小説家)