良くも悪くも、ニンマリした顔が脳裏に残っている人も多いのではないだろうか。安定的な支持率を揺るがすような険しい舞台も役者も、今のところ見当たらない

▼先日、「給料の上がりし春は八重桜」と、浮かれ気分の句も披露した。ほくそ笑む安倍晋三首相である

▼この一句、企業経営者にはどう響いただろうか。春の賃金交渉では、政府の賃上げ要請に「官製春闘」と異名がついた。その後も政府は主要企業へ調査票を送り、賃上げ額の回答も求めた。それも額のみ公表前提とした。自由な経済活動を建前としながら、企業の懐に入れてくる手に、複雑な思いを抱く経営者もいるに違いない

▼落語の道楽息子は、父のしかりを聞くふりして、口ずさむ。「意見聞くときゃ頭をお下げ、下げりゃ意見が通り越す」。経営は道楽ではないが、下を向いて舌を出すくらいは…、と思うほど経営者の沈黙が不思議に映る

▼「主権回復の日」、特定秘密保護法、辺野古埋立承認…。苦汁をなめさせられた側には、自らの歯ぎしりと腕を握りしめる音が聞こえそうな首相の笑みだろう

▼アベノミクスで暮らし改善の期待を持たせながら、異論があっても国家主義的政策を推進する。世論が政権の政策全体を支持している訳でないことは調査が示しているのだが。今は「慢心に用心を」と言っておこう。(宮城栄作)