週末のたびに田舎道の脇で車が鈴なりになる。清明祭の時季を告げる、こんな風景を見掛けなくなったのは、いつのころからだろうか
▼那覇市の識名霊園内に「市民共同墓」が完成し、利用を受け付けている。県内初の公営の共同墓は、合葬室と4千余の納骨檀を備え、約2万体を納めることが可能だ。市が永代管理する
▼決められた一角に墓が集められる県外と異なり、沖縄は門中墓や家族墓が点在するなど独自の葬送の歴史を歩んできた。しかし、市内の無縁墓は12年前で既に400基。少子高齢化やライフスタイルの多様化で共同墓は必然の策だ
▼自分の最期をどう迎えるのか「終活」に熱心な中高年の中には、家族墓の将来を案じる方もおられるだろう。毎日の生活に精いっぱいで年金が頼りの高齢者にとっては、安心できる後生の宿ができたのかもしれない
▼「人は2度死ぬ」とは、フランスの現代芸術家クリスチャン・ボルタンスキー氏の至言である。1度目は肉体の死であり、2度目はその人の存在を記憶する人がいなくなったときを意味する
▼金言たらしめるのは、貧富の差なく平等に死後もその人の尊厳が十分に守られる態勢があってこそだ。墓の前で重箱を広げて談笑する親族が減っても、友人や知人やご近所さんの心の中で生き続ける。そんな社会であってほしい。(与那嶺一枝)