新竹積教授は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)でも異色の研究者だ。沖縄に来る前は、SACLAと名付けられた、世界最短波長のX線自由電子レーザーの技術開発プロジェクトを率いた。兵庫県の理化学研究所放射光科学センターにあるこの施設は、光学顕微鏡の1万倍の倍率で原子の動きを観察することができ、創薬やナノテクノロジー研究を加速させる。OISTに着任してからは、小型で低エネルギーの電子顕微鏡の開発を進めていた。

「海洋エネルギーに興味を持ったのは、沖縄に暮らしているからこそ」という新竹積教授。周りにあるのは発電機の試作機(OIST提供)

 きっかけは、東日本大震災。環境に負担をかけない持続可能なエネルギー源が必要だと考えた。ある日、犬の散歩で近所の海に行った際、荒れ狂う波の中でも無事に立っている漁船誘導用のポールを目にした。「これだ!」とひらめいたのは、リーフエッジに当たって砕ける力強い波の利用。波の持つパワーを電力に変換できれば、沿岸の侵食も緩和できる。頭の中でいくつもの数式が組み立てられ、発電機開発という新たな分野への挑戦が始まった。

 新竹教授は、子どものころから身の回りの物でさまざまなものを実験、開発してきた。お手製の水車やボートの模型のほか、中学生の時には自宅の庭に風力発電機を作った。技術開発には経験と勘、数学と物理が必須と考えている。

 持てる力を尽くしてたどり着いたのが、全く新しい波力発電。プロペラが波を正面からとらえ、回転することで電力を生む。プロペラは小型で直径60センチほど。サンゴ礁で波が砕けるのは岸からおよそ70メートルの浅瀬。小型で簡易な装置は製作費も安価で、岸に近いことで設置やメンテナンス、送電も容易だ。現在主流の海洋エネルギー発電は大型で、遠洋で行うものが多く、開発・運用コストが高い。目指すのはそうした課題を乗り越える発電機だ。

 現在、年間を通じて安定した波が生じるモルディブ共和国で、この発電機の実証実験をしている。1台が生み出す電力はまだ1キロワットほどだが、来年は10キロワット(標準家庭1~2軒分の1日の消費電力)を目指す。

 想像してみてほしい。沖縄から生まれた発電機が、世界中の海岸でクリーンエネルギーを生み出している未来を。波力発電プロジェクトは、壁に突き当たったことが何度もあった。それでも夢に向かって、新竹教授とチームは、今日も実験・開発に励んでいる。(OIST広報メディアセクション・大久保知美)=おわり

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 8日午後6時半から、ジュンク堂書店那覇店で、新竹積教授が波力発電開発の経緯や現状について語る。入場無料。予約不要。