米軍嘉手納基地から発生する騒音が、周辺住民の健康に深刻な影響を及ぼしていることを示す推計データが発表された。

 騒音がもたらす健康被害の専門家で北海道大学の松井利仁教授は、同基地周辺自治体では騒音に起因する心筋梗塞などの虚血性心疾患になる人が毎年51人に上り、10人が死亡していると推定した。

 夜間騒音によって睡眠が阻害されている住民は1万7454人に上ると試算しており、心疾患以外にもさまざまな疾患を引き起こし健康がむしばまれている恐れを指摘した。

 非常にショッキングな内容で、狭あいな土地で基地と隣り合わせの生活を強いられる危険性を改めて示した。

 推計は、昨年10月に改訂された世界保健機関(WHO)欧州事務局の「環境騒音ガイドライン」に基づいた。1999年の同ガイドラインでは、騒音によって心疾患が増加することを示した。昨年の改訂では、過剰な騒音が高血圧や心疾患に影響して心臓発作や心血管系疾患による死亡の原因になることもあると言及。影響を推計する数式も初めて示した。

 松井教授は、県などが計測した騒音測定値をもとに夜間騒音マップを作製し、長時間に及ぶエンジン調整音など飛行時以外の地上騒音も加味し、推計値を求めた。

 騒音による睡眠妨害が健康被害につながることを示す証拠は増えていくが、政府はこの20年間、健康被害について調査していない。国は実態解明を何より急ぐべきである。

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 近年の基地騒音を巡る訴訟では、裁判所も騒音と健康被害の因果関係を認めるようになり、国が支払う損害賠償額を増加させる判決が下されている。

 2017年2月の第3次嘉手納爆音訴訟の一審判決は騒音による日常生活上のさまざまな妨害、睡眠妨害、高血圧症の発症などのリスクを認定した。

 しかし、被害を根本的に除去する飛行差し止め請求については、米軍の行為を国が制限できないとする「第三者行為論」を持ち出し、門前払いとしてきた。

 司法は政府の騒音対策の無策ぶりを批判し、騒音規制を促す。だが、飛行制限に踏み込まない司法判断こそが政府の無策を助長してきた面もある。第三者行為論で飛行差し止めには踏み込まず、政府に対策を求めるだけでは、司法も国民の要望に応えているとは到底いえない。

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 第1次嘉手納爆音訴訟判決が確定し20年以上経過しているが、政府が騒音規制に誠実に向き合った形跡はなく、嘉手納の住民の健康や生活への被害が蓄積され続けてきた。

 その上、嘉手納基地では駐機場の拡張工事が住宅隣接地で始まり、CV22オスプレイをはじめとする外来機も飛来するなど、機能強化や騒音の増大が続く。今後、健康被害が深刻化する恐れがある。

 推計値を示した松井教授は「死亡を含む健康影響を受けている現状を放置すべきでない」と訴える。政府も司法も真摯(しんし)に応えるべきである。