東日本大震災で被害を受けた福島県双葉町の伝統的な盆踊りを題材にしたドキュメンタリー映画「盆唄」(中江裕司監督)が9日から那覇市の桜坂劇場で上映されている。銀幕の中に怒り、嘆き、声高な訴えはなく市井の会話と伝統の鼓動で作品は紡がれる。中江監督は「現実はすべて伝えきれるものではない。それでも人々の営みの力強さを撮りたかった」と語る。(学芸部・松田興平)

新作ドキュメンタリー映画「盆唄」について語った中江裕司監督=那覇市・桜坂劇場

映画「盆唄」の一場面。現実に向き合う被災者たちの表情とともに作品はつづられていく

新作ドキュメンタリー映画「盆唄」について語った中江裕司監督=那覇市・桜坂劇場 映画「盆唄」の一場面。現実に向き合う被災者たちの表情とともに作品はつづられていく

浮かび上がる、苦境の中の光

 「ナビィの恋」「ホテル・ハイビスカス」など沖縄を舞台にした作品で注目を集めてきた中江監督による8年ぶりの作品。2015年から17年にかけて撮り続けた。

 映画の軸は福島県双葉町とハワイの日系人を結ぶ「双葉盆唄」。100年以上前に福島からハワイへ移住した人々が継いできた盆踊りは、今も「フクシマオンド」として現地で愛されている状況を伝えながら作品は進む。

 一方、本場である同町の人々は原発事故の影響で避難先での生活を強いられ、伝統存続に危機感を抱く。双葉町の人々は再び手を携えて盆踊り復活へ少しずつ動きだす。

 さらに、町を代表する歌い手、太鼓奏者たちは指導のためハワイを訪れ、伝統の熱を共有していく。

 ナレーションがなく、出演する一般市民たちの会話を中心に展開していくことが同作の特徴。人々は日常の中で、国策への怒り、故郷へ帰れない悲しみなどは感情的に語らない。

 ただ、苦境と向き合い続けているゆえ発せられる何げない言葉に生々しさがある。

 中江監督は「ここは悲しい場面ですよ、怒るところですよ、という風に訴えながら見てもらうドキュメントとして作っていない。見る人それぞれが感じ取ること。だからこそ現実の厳しさが見えてくると思う」と説明する。

 仮設住宅での盆唄復活までの流れは被災者の日常の目線を中心に追っている。

 一方でハワイ移民が盆唄を継承してきた歴史的な逸話は北陸から福島そして海外へ、という風に数百年単位の時の流れを俯瞰(ふかん)で捉えるように描く。素朴な絵柄のアニメーションも交え、時代ごとの空気感を伝える。二つの視点が苦境の中に見える光を浮かび上がらせる。

 「5~10年のスパンで被災地を見ると、まだまだ現実は厳しい。でも盆唄は100年200年かけて海まで渡って継がれてきた。苦しい今と同時に、歴史から見えてくる人間の強さも伝えたいと思った」。

 沖縄移住39年目の中江監督は、朗らかな顔でこう付け加えた。「苦しいときでも歌って踊って、楽しく元気を出せば乗り越えられるということは沖縄に来て知った。登川誠仁さん、照屋林助さんたちが僕に教えてくれた」。

 「盆唄」を開催する終盤シーンは、打音と歌で人々の心情をさらけ出しているような印象を抱かせる。音楽とその合間にのぞく老若男女の笑顔、まなざしに監督のメッセージがにじむ。