携帯電話大手の代理店業務などを担う沖縄県内企業の元社員の女性(31)が、携帯ショップ店長を務めていた26歳の時に脳梗塞を発症したのは過重労働が関連したとして、沖縄労働局那覇労働基準監督署が昨年11月に労災を認定したことが9日までに分かった。過労との因果関係の証明が難しいとされる脳・心臓疾患での認定はまれ。(中部報道部・篠原知恵、社会部・新垣綾子)

「走れない」「ジャンプが出来ない」。脳梗塞の後遺症を記したメモを示す女性

沖縄の労働災害発生の推移

「走れない」「ジャンプが出来ない」。脳梗塞の後遺症を記したメモを示す女性 沖縄の労働災害発生の推移

超勤109時間 労災と認定

 同社の社員は約200人。沖縄タイムスが入手した労基署の調査復命書によると、女性の発症直前1カ月間の時間外労働は109時間21分で、過労死の目安とされる月平均80時間を超過。12日連続勤務も確認された。

 労働時間はタイムカード管理だったが、女性はカード打刻後も働くことが多かったという。労基署はショップが出店するショッピングセンターに残っていた女性の入退店記録などを基に労働時間を算定し「業務と発症との関連性は強いと評価でき、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められる」と判断した。

 女性が発症時に店長を務めていたショップは、年中無休で午前10時~午後9時の営業。繁忙時を除き、基本的に女性を含む社員3人で運営していた。

 女性は脳梗塞の発症後に退職した。会社の支援体制が弱い中で、店長業務や過重なノルマを課され肉体的・精神的負担を強いられたとして昨年3月に労災申請していた。

 同社の担当者は本紙取材に「真摯(しんし)に受け止め反省している。二度とこうした事態が起きないよう社内の人的管理態勢を大幅に強化し、労務環境を改善させている」と述べた。

給与は一般社員と変わらず

 脳梗塞で倒れ、労災認定された元携帯電話ショップ店長の女性(31)=本島南部=が14日までに、沖縄タイムスの取材に応じた。「社員の働き方に配慮がない会社に、責任だけ押し付けられていたと思う。当事者が声を上げないと現状は変わらない」と語った。

 3日間の販売促進イベントを終えた夜、自宅アパートのトイレで女性は突然倒れ、右半身が動かなくなった。1人暮らしで「何が何だか分からなかった」と混乱する中、母親に付き添われ、翌日受診した病院で脳梗塞と告げられた。当時26歳。約半年の入院生活を余儀なくされた。

 携帯電話の販売を請け負う会社には、大学生の時に参加した企業説明会で好印象を抱き、新卒で入社した。接客にやりがいを感じつつ、契約数などノルマに追われる日々。25歳で大型ショッピングセンター内にあるショップの店長を任されると、心身のストレスが増した。

 月給は手取り18万円余で一般社員の時の水準と変わらないのに、「販売業務や金銭管理に、指導報告書作成、責任者会議への出席などが加わり、仕事量は3倍にも感じた」。

「もう元の体には戻らない」

 一方で会社の教育体制は十分でなく、年中無休の店舗を繁忙日を除き主に3人で運営した。女性以外は1人が妊娠中、もう1人は2期後輩で、女性は責任感から業務を背負った。休憩中も来客に気を使って食事を取れないことがあり、精神的にも不安定に。頭痛や下痢が続き、そして倒れた。

 脳梗塞発症から4年が過ぎて労災を申し立てたのは、医師から「元の体には戻らない」という現実を突き付けられたことが大きい。31歳になった今も、後遺症のため駆け足やジャンプすることが難しく、階段の上り下りには支えが必要だ。右手の感覚も鈍く、実家で療養しながら週1回のリハビリに通う。「なぜ、私だけがこんなことに」。現在は無職。気後れから、親しい友人に会うこともめっきり減った。

 発症までの1カ月で認定された時間外労働は109時間21分。過労死のリスクに直面した状態だった。女性は思う。「今もどこかに、かつての自分と同じように異常に気付かず、追い詰められている若者がいるのではないか」。自身の労災認定が立場の弱い労働者の勇気となり、利益第一の企業への問題提起になればと願っている。

入社数年の若者を酷使

 金高望弁護士(のぞみ法律事務所 )の話 入社数年の若者を、責任や業務量に見合わない待遇で「名ばかり店長」にする。目先の利益優先で長期的に育てる発想がなく、若者を使い捨てにしていると言われても仕方がない。

 この数年で失業率は改善され、仕事の数は増えたが雇用の質はむしろ低下している。人手不足ならば待遇が改善し、質が上がりそうなものだが、そうはならず外国人労働者を増やそうとしている。

 学校教育で労働関係法令を教えられないまま社会に放り出されるため、自分の働き方が異常だと気付けない若者も多い。まずはインターネット情報でもいい。もっと労働法の使い方を学び、必要に応じ専門家や労働組合も頼ってほしい。(談)