認知症による徘徊(はいかい)が原因で行方が分からなくなっていた60
代の女性が、先週、7年ぶりに家族と再会した。NHKのテレビ番組をきっかけに情報が寄せられ、身元が判明した▼女性は東京都内の自宅からいなくなった。保護されたのは60キロ以上も離れた群馬県館林市。家族は警察に捜索願を出し、自前のチラシを配るなど手を尽くした。女性は認知症のため自分の名前や住所が言えなかった
▼警察庁によると認知症で行方不明になったとの届け出は、昨年1年間で1万人以上に上る。うち約390人は発見された時、すでに亡くなっていた。高齢者の4人に1人が認知症とその予備軍という時代にあって、問題は差し迫っている
▼全国老人福祉施設協議会が「60歳からの主張」と題して募る人気の川柳がある。〈朝帰り 昔夜遊び いま徘徊〉とおおらかに詠むのは60歳の女性
▼年をとると肉体的にどうにもならないことが増えてくる。それでも第二の人生をユーモアたっぷりに表現する川柳は、老いを違った目でとらえる大切さを教えてくれる
▼「認知症徘徊」を家族の自己責任だと言って距離を置く限り問題は解決しない。明日はわが身。徘徊による危険性を減らしていく地域社会の仕組みづくりが早急に求められる。認知症による行方不明者が万単位という現実を直視すべきだ。(森田美奈子)