東京の街にも、ソメイヨシノの薄桃色の花びらが色付き始めた。冬が終わり、暖かな春の訪れを告げる。どこか高揚感が湧き上がる桜の開花に合わせるかのように、あのレジェンドが日本に帰ってきた

(資料写真)オリックスの宮古島キャンプを訪れ、フリーバッティングで汗を流すイチロー選手=2005年2月6日

▼米大リーグ19年目、マリナーズのイチロー外野手(45)。日米通算4367本。世界の歴史上、プロ野球で最も多く安打を放った選手であり、今なお年齢を超越した運動能力を誇る

▼あれほど、いとも簡単に打ち返してきた選手が、これほどヒット1本を生むのが難しいのか。今季はオープン戦を含む30打席で快音を響かせられず、現役生活に幕を下ろす

▼21日の最後の試合。八回裏、監督が交代を告げると、いったん守備に就いたほかの選手が引き揚げ、誰もいなくなったグラウンドを、イチロー選手は何度も観客に手を振り、ベンチ前へ

▼そこにはチームの選手・スタッフが勢ぞろいし、一人ずつ名残惜しむように抱擁した。その間、試合は数分間中断。公式戦の試合中、しかも4対4という接戦のさなか。米球界にとっても異例のセレモニーが許される存在なのだ

▼桜は満開の盛りが壮観だが、散り際に花びらが風に舞う様子もまた秀逸。髪の毛に白いものが交じる中、背筋を伸ばし、颯爽(さっそう)とグラウンドに立つ。ヒットを打てなくても、自分の美学を失わない引き際が美しかった。(西江昭吾)