ウチカビ(冥銭)が使われた詐欺の記事に、エープリルフールでもないのにあの世の詐欺事件が載るのかといぶかったら、この世の話。しかも2度目だ
▼1度目は昨年11月、石垣市のスーパー。紙幣ではないと疑ったアルバイトのレジの女子高校生に、犯人は「昔の(お金)だから」と悪知恵を働かせた
▼先日は、与那原町で降車した男が70歳代のタクシーの運転手さんを引っ掛けた。それもそのはず。ウチカビといっても、見慣れた黄土色の紙銭ではない。一万円札に似て非なるアイデア商品だ
▼表は福沢諭吉らしき人物が描かれているが「琉球冥界銀行」と印字され、透かし部分には首里城がくっきり。お札の裏にあるのは伝説の鳥「鳳凰」だが、こちらはシーサーを鎮座させ、ひねりを効かせている▼旧盆にはウチカビのほかに、あの世に帰る際に使うサトウキビのグーサン(つえ)や、荷物を頭に載せるときにその間に置くガンシナなども供え、祖先の時代に合わせ気遣ってきた。そのこまやかさは、目上の人を敬う教えへと連なる側面があるだろう
▼件のウチカビを旧盆に使った女性も「燃やすときに、ご先祖が戸惑わないかと少し気がとがめた」と、ことしは元のタイプに戻す。現世の人が使えないお金にも手を伸ばした事件には、ご先祖さまも目をむき嘆いているに違いない。(与那嶺一枝)