暑い夏にはあおいで風を送り、冬がきたら懐に抱いて寒さをしのいであげる。歌手の古謝美佐子さんの名曲『童神』は、いとおしいわが子を慈しむさまを歌っている。親心である
▼料理を作っては、温かいうちにと先に子に出し、おかわりを求めれば、自分の皿から分けてくれた。記憶がある。子は愛情を一片ずつ腹にためて育ち、いつか分け与える父母になる。親子というものだろう
▼少年の小さな影が胸の中で回っている。神奈川県で白骨化した遺体で見つかった斎藤理玖君である。週に1、2回しか弁当を与えられず、閉じ込められた部屋で亡くなっていた。愛情も食べ物もどれだけでも欲しい盛りの5歳であった
▼ひもじかったろう。夏の熱、冬の冷気はつらかったろう。動けず仰いだ天井に向かって、何度も親を呼んだに違いない。やがて学校に進み、夢を追って働き、親にもなったであろう人生である
▼せめて痛惜の一言でもと、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された父親(36)の言葉を探すが、報道にはなく、はらわたが煮え返る
▼万葉集に幼子を亡くした山上憶良の句がある。〈若ければ道行きしらじ賂(まい)はせむ黄泉(したへ)の使(つかい)負ひて通らせ〉。幼いゆえ道を知らないはず。あの世からの使者よ、贈り物をするからどうか連れて行っておくれ。この句を思い出さない日が続けと願う。(宮城栄作)