まるでタイムスリップしたような錯覚に陥った。沖縄市にある勤め先周辺を散策していると、安慶田交差点から望む「中乃湯」の文字に吸い寄せられた

▼年季の入ったコンクリート造りのたたずまいは情緒たっぷり。入り口にある木枠のガラス戸、せっけんやタオルが並ぶガラス製の商品棚。昭和時代の祖父母の家を思い出す

▼「はい、いらっしゃい。ゆっくりしていって」。店先のベンチに腰掛け、常連客らとのゆんたくに花を咲かせる店主の仲村シゲさん(85)。鉱泉を掘り当てた亡き夫の次郎さんが1960年ごろに始め、約60年にわたって火を守り続けてきた

▼かつては300軒以上あったという県内の銭湯は、家庭用浴室の普及と後継者不足や燃料の高騰などで徐々に減少。県内で唯一残る「ゆーふるやー(銭湯)」が中乃湯だ

▼「もうけはほとんどないけど、みんなが喜んでくれるから残したいさ」とシゲさん。天を指して「向こうに行くための貯金も崩したよ」と笑いながら、新調したボイラーを見せてくれた。来る「令和」の時代も裸の付き合いのできる庶民の社交場を守り続けたいという

▼取材の最後に湯船につかると、常連客が口をそろえる「ぬちぐすい(命の薬)の湯」が身にしみた。大型連休中も平常通り日・木曜以外は営業する。昔ながらの銭湯を訪ねてみるのもいい。(石川亮太)