故翁長雄志前知事から生前、こんなエピソードを聞いた。きょう即位する新天皇陛下が、皇太子時代に来県した。出迎えた沖縄の経済人が「いつもお世話になっています」と名刺を出した。皇族は名刺を持っておらず、こうした行為は一般的に失礼とされる

▼経済人は、にこやかに続けた。「お父さまにも、よろしくお伝えください」。翁長さんは「ウチナーンチュらしいよね」と笑っていた

▼記憶を確かめようと、翁長さん側近の元議員に聞いた。「その話、うれしそうに僕にもしてたよ」と懐かしんだ。翁長さんは経済人を通じ、素朴で自然体の県民性や、皇室への親しみを感じたのだと思う

▼親しみの理由は、きのう退位した前天皇陛下が、沖縄に寄り添う姿勢を貫いたことだろう。退位直前の本紙調査は、前陛下に「好感が持てる」が87%に上った。昭和だった1987年の調査は、天皇への「尊敬」「親しみ」が、わずか37%だった

▼戦争責任論、米国に琉球諸島の軍事占領を継続するよう望んだ「天皇メッセージ」。昭和天皇への県民感情は、峻烈(しゅんれつ)に近かった。即位直後に「親しみを感じる」が53%だった前陛下が、30年かけて和らげた

▼新陛下はあの日、恭(うやうや)しく名刺を出した経済人を覚えているだろうか。沖縄への思いを新陛下が継承するかどうか、県民は注目している。(吉田央)