かつてない10連休のまっただ中。仕事で連休とは縁遠い方もいれば、この機会に遠出する方もいるだろう。かくいう私は知人に会いに山梨県を訪ねた

▼山梨といえば果物の産地。宿への道すがら、笛吹川フルーツ公園に寄った。甲府盆地を見渡し、雪を頂く富士山を望む景勝地。その一角にタイムスリップしたような古民家があった

▼横溝正史館。「犬神家の一族」など名探偵金田一耕助シリーズで知られる推理作家が使った東京・成城の書斎を移築した。山梨が故郷ではないものの、偶然が重なってそこにある

▼作品は親しんできたが、生い立ちまでは知らない。管理人に聞くと、江戸川乱歩の勧めで上京するまで薬剤師として神戸市の実家の薬局に勤めていた。日本中でブームになったのは73歳だから遅咲きの部類か

▼本格的に推理小説を世に出したのは終戦翌年の1946年。後年、著書に「戦争中、探偵小説は圧殺された。日本がどうなるかという不安より(終戦で)小説の書ける日が訪れそうという希望を持った」とある。新時代の到来が傑作を生んだ

▼旅で英気を養い、小欄の執筆でパソコンに向かう。〈謎の骨格に論理の肉付けをして浪漫の衣を着せましょう〉。書斎にあった横溝直筆の色紙を思い出す。言うは易(やす)く行うは難し。大作家の至言のように筆は進みそうにない。(西江昭吾)