ドブネズミには写真に写らない美しさがある、と歌ったのは、ロックバンド「ザ・ブルーハーツ」の32年前の名曲「リンダリンダ」。中学生だった当時は意味が咀嚼(そしゃく)できなかったが、社会人経験を積んだ今なら自分なりに解釈できる

▼虐げられても、めげない心。狭い価値観に縛られない多様な生き方。外見ではなく内面の大切さを問い掛けているように思える

▼この人はどんなメッセージを込めたのか。東京港の防潮扉に描かれた傘を持ったネズミの絵は、正体不明の路上芸術家バンクシーの作品とみられている

▼都庁で期間限定公開された絵を間近で見た。その小ささに思わず前かがみで目を凝らす。かすかな興奮とともに、路上芸術を切り取って別の場所で展示することへの違和感も湧く

▼映画「バンクシーを盗んだ男」は、パレスチナとイスラエルを隔てる壁に描かれた絵を切り出し、ネット競売に出す地元男性を軸に、路上芸術の在り方を問う。社会風刺を込めたバンクシーの作品は人々の耳目を集める。男性はある場面で毒づいた。「壁に絵を描いても壁はなくならない。我々は壁から自由になりたいんだ。絵を描いて偽善者ぶるのはやめろ」

▼その憤りは分かる。抑圧された地元民の願いは、関心の高まりの先にある日常生活の確かな変化だ。沖縄の基地問題も似ている。(西江昭吾)