刑事裁判に国民が参加する裁判員裁判の制度導入から21日で10年の節目を迎えた。同制度は今後、どうあるべきか。「裁判が分かりやすくなった」という評価の一方、「裁判員による量刑判断は重圧」との指摘もある。裁判員経験者、裁判官、検察官、弁護士に課題や展望などを聞いた。(社会部・下里潤)

「国民の意見を聞くのは重要だが、量刑の判断まで必要ない」と話す裁判員裁判経験者の女性

■男女比

 2018年10月、那覇地裁。実兄を包丁で刺し殺人罪に問われた20代男性被告の裁判員裁判で、裁判員は6人中女性1人だった。判決後、本紙の取材に応じた50代女性=会社員=は「男女の目線は違う。事案によっては同数にする方がより公平では」と振り返った。

 被告は、複雑な家庭環境で育ち、軽度の知的障がいがあった。障がいに対する周囲の理解はなく、いじめられ、引きこもるようになった。兄に怒られたことがきっかけで過敏に反応するようになり犯行に及んだ。

 女性は「どうして犯罪を止められなかったのか」と被告の母親の気持ちになって考えた。おなかを痛めて産んだ兄弟間で起こった事件。「被告に手を差し伸べる人はいなかったのか」。胸が締め付けられた。

 被告のことを考えれば考えるほど心配は尽きなかった。刑期を終えた被告を温かく受け入れてくれる場所はあるのか。知的障がいに対する社会の理解は進んでいるのか。被告の人生を案じ、何年の刑を科すのが妥当か迷った。

■判例提示

 そんな時、裁判官が提示したのが過去の判例だった。全国の同じような事例が紹介され、量刑傾向の幅が示されていた。

 「既に答えが出ているのと同じでは」と女性は言う。法律を知らない人が判断しやすいよう工夫してくれたのは理解できる。ただ、裁判員裁判は一般国民の感覚を司法に取り入れることが趣旨のはずだ。女性は「判例が示されると率直な意見が言いにくくなると思う。国民の声は本当に反映されているのか」と首をかしげる。

 裁判が終わった今も、刑を決めたことに対する重圧は消えない。女性は「司法への理解を深めさせたいならば、国民に刑の重さまで決めさせないでほしい。自由な発想で意見を述べるにとどめ、最終的に法律のプロが判断する形が理想だ」と語った。

裁判員制度10年

<裁判官はこう考える>那覇地裁・佐々木公裁判官

■争点の明確化を実現

 裁判員制度のメリットは争点が明確に定められ、対立点を意識した証拠調べが行われるようになったことだ。制度導入前は必要性を丁寧に吟味することなく立証が行われ、判決理由も無駄が多くて長い傾向があった。導入後は「筋肉質の裁判」と表現したら良いだろうか。論理のすっきりした審理や判決が実現できるようになったと思う。

 裁判員の不安や緊張を取り除くため、休憩時間は事件と関係のない話や冗談を言える雰囲気づくりに努めている。評議では法律概念などを説明するが、裁判員が自由に意見を述べやすいよう、裁判長としての意見は控えるようにしている。

 最終的にチームとしての結論を出し、責任は全て裁判長が負うことを説明する。少しでも重圧が緩和できれば。沖縄の皆さんは真剣に裁判に参加している。全ての事件に自信を持って判決を出せている。

<検事はこう考える>那覇地検・児玉陽介次席検事

■尋問の能力向上した

 従来の職業裁判官らによる裁判では、膨大な証拠を提出し法廷外で読み込むなどの手法を取っていた。だが、裁判員裁判では限られた日数で分かりやすい主張、立証が求められる。法廷で見て、聞いただけで理解できるよう、この10年、努力を積み重ねてきた。

 複数の証拠を一つにまとめて平易な用語で説明したり、イラストや図面を多用したり。コンパクトで一目で理解できる資料を目指している。被告人や証人尋問の時間も短縮され、重要なことに絞って問う検事の尋問能力も高まった。

 一方で、沖縄の裁判員裁判対象事件の起訴件数は、10年間で約170件あり、九州の中では福岡本庁、福岡地検小倉支部に次ぎ3番目に多い。罪名も殺人や強盗致傷、薬物の密輸など多岐にわたっている。事案の真相解明と適正処罰に向け、今後も分かりやすさを追求していきたい。

<弁護士はこう考える>沖縄弁護士会・高良誠弁護士

■手続きの長期化課題

 刑事裁判を迅速に進めるため初公判の前に裁判官と検察官、弁護士が証拠や争点について協議する「公判前整理手続き」が導入された点は評価できる。検察側から事前に証拠が開示されるため誤った判断が減り、弁護方針なども立てやすくなった。ただ、争う部分が多い場合、どうしても手続きが長期化する場合がある。今後の課題だ。

 公判での審理は検察側と比べて説明が分かりにくいとの指摘があり、真摯(しんし)に受け止めている。弁護士は個人で活動しているため難しい部分はあるが、弁護士会での勉強会などで研さんを続けている。

 個人的見解だが、沖縄で多い刑事責任能力を問う事件は、プロの裁判官が判断する制度に改めることも検討されていい。責任能力は医学的知見も踏まえた法的判断が要求される。裁判員に短期間で判断を迫るには無理があるからだ。

<ことば>裁判員制度

 刑事裁判に市民感覚を反映させる目的で2009年5月に始まった。市民から選ばれた裁判員6人が裁判官3人とともに、有罪、無罪と量刑の判断をする。対象は殺人や傷害致死事件など。20歳以上の市民から無作為に選ばれた裁判員候補者の中から、裁判所での選任手続きを経て、裁判員が決まる。欠員に備えて補充裁判員も選任される。判決内容を決める評議の具体的な中身は守秘義務が課される。