ヘッドホンから響く約1世紀前の歌声。雑音が混じり聞き取れない箇所もあるが、確かに人の息遣いを感じる。1920(大正9)年に採録された「北里録音蝋管ろうかん」の音源の公開が県立図書館で始まった

▼沖縄で録音され、今でも聞くことができる歌謡としては最古とみられる。同館が収蔵元の大谷大学図書館(京都市)に申し出て、デジタル化した複製CD11枚の所蔵が実現した

▼蝋管レコードは表面に蝋が塗り固められた筒状の録音媒体。日本語の起源を探求した言語学者の故北里きたさと闌たけし氏が20年から31年にかけ、沖縄や北海道、台湾などを旅し、蓄音機で録音した

▼音源が注目されたのは84年から85年にかけて。北海道大学などがアイヌ語を中心に解析した。ただ、沖縄関連には研究が広がっていなかった

▼今回、公開前に県内の専門家が音源を耳にし確認できたのは八重山のトゥバラーマ、宮古のトーガニ、琉球古典音楽の茶屋節など15曲余り。石垣島で録音された歌謡は歌詞や掛け合いが現在と異なるなど、叙情豊かという

▼かつて北里氏が来県した際、調査に助言をしたのは、当時の那覇図書館(現県立図書館)館長だった伊波普猷ふゆう。約1世紀を経ての調査成果の公表に、同館は「特別な思い」を抱く。北里氏の熱意とともに渡されたバトン。県民の財産となった今、さらなる成果を期待したい。(内間健)