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「『がんゲノム医療』検査に保険適用」を読み解く 岡崎威生(琉球大学工学部教授)

2019年6月12日 11:00
 がんの遺伝子を調べ、最適な薬を選ぶ「がんゲノム医療」の検査に保険が適用されることが決まった。既存の治療が受けられない患者にとって選択肢が増えるとの期待は大きい。ただ検査が治療につながる割合はまだ低く、検査体制は整備途上だ。(5月30日付)

命救うことが第一使命

 ゲノム情報を利用した医療が現実化している。今回保険診療が認められたのは、患者のがん遺伝子に含まれる遺伝子変異を発見することで、効果の期待できる治療薬を選択する検査である。ゲノム情報解析の視点から読み込んでみたい。

 ゲノムはデオキシリボ核酸(DNA)に含まれるすべての遺伝情報のことである。DNAは4種の塩基の並びで表現され、ヒトの場合は30億の長さを持つ。これを情報量の単位ビット(1ビットは2通りの状態を表現できる)で表すと60億ビットとなり、1枚のCDでは少し記録しきれない大きさとなる。

 DNA配列を獲得するために使われるDNAシークエンサーと呼ばれる装置は、30億の長さを一度に読み取ることはできない。そこで配列が断片化され、それぞれ読み込んだ後に結合するので、正確な復元のためには繰り返して読み込まなければならない。結果的に3テラビット以上のデータが発生する。結合を担うのは超高速コンピューターだが、処理に数日を要する。

 このようにして個人のゲノム情報が得られるが、遺伝子変異の発見はこの後のプロセスである。データベースに登録されている配列や他人の配列と比較し、類似する部位を発見する。逆にみると、比較参照される配列は、臨床情報や特異性などが既にわかっていなければならない。つまり、知識はここに集約されていることになる。

 この知識を獲得するためには、ゲノム情報と臨床情報のセットを大量に蓄積し、配列の特徴と臨床情報の関係を抽出することが必要となる。アメリカや中国は、この分野に早くから膨大な投資を行ってきた。より高速な配列読み取りを実現する次世代シークエンサーを研究機関や製薬会社などが大量に導入し、配列処理や知識獲得のためのスーパーコンピューターも同様である。獲得した知識は特許としても登録され、利用には対価が求められ医療費に影響する。日本が出遅れてしまったことは取り返せないが、スーパーコンピューター「京」の後継機「富岳」には個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学というミッションが設定されており、国家的な取り組みとして知識獲得が本格化する。

 スタートするがん遺伝子パネル検査は、全ゲノムを解析するのではなく、がん遺伝子に該当する部位だけが対象である。ゲノム情報の活用は、がんに限らず、遺伝子が影響する全ての疾患に対して期待されている。医学や情報科学の研究者にとって重要な研究課題ではあるが、命を救うことが第一の使命であることを忘れずにおきたい。

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