社説

社説 [老後報告書 実質撤回] フタをせず説明尽くせ

2019年6月13日 07:00

 国民の関心が極めて高い問題であるにもかかわらず、説明も議論も不十分なままだ。 選挙を意識した国民不在のドタバタ劇が将来不安をかき立てている。

 麻生太郎金融担当相は、老後の資産形成を促した金融審議会の報告書を「正式な報告書としては受け取らない」ことを明らかにした。

 報告書は、夫65歳以上、妻60歳以上の高齢夫婦の場合、年金だけでは老後の資金をまかなえず、生活費が30年間で2千万円不足する、と試算している。

 年金以外に約2千万円の蓄えが必要だとの試算は、年金制度そのものへの不安をかき立て、各方面から反発を招いた。

 野党は一斉に「年金の『100年安心』はウソだったのか」と政府を追及した。

 自民党は参院選への影響を懸念し、金融庁に強く抗議した。

 審議会の作業部会が報告書を発表した当初、麻生氏は内容を容認する姿勢を示していた。各方面からの批判にさらされ、麻生氏は「表現が不適切だった」ことを認めた。

 自らが諮問して専門家らに作成させた報告書の受け取りを担当大臣が拒否するのは極めて異例である。

 自民党は「政府は報告書を受け取っていない」との理由で、野党が要求した予算委員会の開催を拒否した。

 選挙への影響を最小限にとどめるため、公になった報告書そのものをなかったことにし、十分な説明もないままフタをしようとする-その姿勢が不信感を招き、年金不安を高めているのである。

    ■    ■

 予算委員会の開催は、衆院が3月1日、参院は3月27日が最後で、その後一度も開かれていない。なぜ、予算委で集中審議し、国民の不安に答えようとしないのか。それがまったく理解できない。

 少子高齢化が進む中で公的年金の給付水準が低下するのは避けられない、と言われ続けてきた。

 報告書は原案では、年金水準の「実質的な低下が見込まれる」としていた。公表された報告書では「今後調整が見込まれている」とのあいまいな表現に変わった。

 表現が変わっただけで、将来の想定が変わったわけではない。そして強調されたのが資産形成などの「自助」の勧めである。

 選挙前になると政権与党は、糖衣錠のような「おいしい話」を有権者向けに打ち出し、「苦い話」を避けたがる。だが、今必要なのは正確な事実に基づいた将来を見すえた制度構想だ。

    ■    ■

 各世代に広がる年金不安を放置すれば、有権者は将来に備え、個人消費を抑制する。 金融機関は投資を奨励するが、リスクを考えると、とてもなけなしの預貯金を投資に回すことはできない。

 安倍政権の経済政策(アベノミクス)の恩恵を受けている層は、大企業や資産家など一部に限られている。

 単身高齢者の貧困や高齢者間の格差は深刻だ。

 議論すべきことを先送りしてきたツケが回ってきているのである。

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