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[私の公設市場物語](3)映画監督・中江裕司さん 「下を向いたら駄目だよ」教えられた人のつながり

2019年6月13日 21:39

 那覇市牧志の桜坂劇場の社長を務める中江裕司さん(58)=南風原町。映画「ナビィの恋」をはじめ、沖縄を舞台とする数多くの作品を生み出す映画監督でもあり、監督デビュー翌年の1992年から2017年まで、脚本を書くなどの仕事場として公設市場に事務所を設けていた。「この市場に育てられた」と話す。

よく昼食を取るお食事処「さくら亭」の前で思い出を語る中江裕司監督=5月31日、那覇市第一牧志公設市場

 琉球大学学生時代に映画研究会のサークルに入った。休みの日に公設市場を探検する気持ちで来たら、混沌(こんとん)とした街並みに、人々がわっと集まっていた。一瞬怖い感じもしたが、同時に沖縄の人の活力に魅力を感じた。アマチュアとして最初に撮った作品は公設市場が舞台だった。

 プロになってもここに事務所を構えたのは「お昼ご飯に困らないと思ったから」と笑う。

 ある日、脚本のことを夢中になって考えながら歩いていると、かまぼこ店のお母さんに「下を向いたら駄目だよ。何か悩んでいるのかとみんなが心配するから」と怒られた。人は独りではなく、みんな一緒に生きていくことを教わった。市場を歩き、目が合えば、誰ともなく会釈する。「人とのつながりの濃さを教えてくれたのが市場だった」

 公設市場には、障がいのある人も多く出入りしていた。「豊かな社会の在り方を体現していると思った」。一方、都会になるほど適応できない人が排除されていく社会になっている気がする。そういう社会の雰囲気の中でこそ、市場の情け深いところは残ってほしい。

 離島出身者も台湾も中国の人もいて、みんなでこの市場をつくっている。移転しても、いろいろな人を受け入れる市場であり続けてほしいと考える。

 昨秋からは、公設市場などを舞台にしたNHKのドラマ「甲子園とオバーと爆弾なべ」を手掛けている。しまくとぅばと日本語の字幕付きで、8月7日にNHKBSプレミアムで放送する予定だ。「自然にできた市場の人の風景や、情け深さを記録し残していきたい」と語った。(聞き手=社会部・徐潮)

 なかえ・ゆうじ 1960年京都生まれ。映画監督、桜坂劇場を運営するクランクの代表取締役社長。92年にプロデビューし、99年に公開した映画「ナビィの恋」が芸術選奨文部大臣新人賞を受賞するなど、沖縄関連の作品を多く手掛けている。

ありがとう牧志公設市場 ウェブ写真館
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