香港政府トップの林鄭月娥行政長官は18日、「逃亡犯条例」の改正問題を巡って「社会の分断や争い、不安を招いた」として謝罪した。

 「撤回」するとは明言していないが、市民の理解が得られない限り「絶対に改正作業を再開しない」と述べた。

 これをどう評価するか。今後は、完全撤回を求めてきた民主派の動きが焦点となる。

 ここまでのところは、香港の圧倒的な民意が香港政府を追い詰めた形だ。

 林鄭氏は15日、立法会(議会)での審議を期限を定めず延期する、と発表した。その際、「決して撤回しない」と発言したため、民主派の激しい反発を買った。

 翌16日のデモには過去最大規模の「200万人近く」(主催者発表)が参加したというから驚きだ。

 6月9日のデモの参加者は「103万人」(主催者発表)だった。その倍近い人たちが集まったことになる。

 改正案は、犯罪容疑者の中国本土への移送を可能にするもので、中国の司法を香港に持ち込むような効果を持つ。 香港の民主派は、中国が事件をでっち上げて香港にいる民主派の引き渡しを迫る恐れがある、と警戒する。

 経済界からも改正案に対する反対の声が上がったのは、香港における「司法の独立」が脅かされ、国際的な信用を失いかねないからだ。

 香港の中国化によって一国二制度が形骸化し、表現の自由が脅かされることに対する深刻な懸念が一気に噴き出したのである。

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 1997年7月、英国の植民地だった香港が中国に返還されたとき、中国は香港に大幅な自治権を与え、50年間は中国と異なる政治、経済の制度を認める、と約束した。

 一国二制度である。

 香港返還以降、中国政府は一国二制度を認めつつも「一国がなければ二制度もない」との立場を維持してきた。

 中国政府が最も警戒しているのは、香港が中国民主化運動の拠点となり、共産党独裁を揺るがすことだ。

 台湾への波及にも神経をとがらせる。

 中国政府は返還後、香港への介入を強めていった。

 「二制度」よりも「一国」のほうを重視する姿勢を示してきたのである。

 行政長官選挙の民主化を求め市民や学生らが幹線道路を占拠した2014年の「雨傘運動」に対しては、一切の妥協を拒否した。

 中国政府が今回、「逃亡犯条例」改正の無期限延期を認めたのはなぜだろうか。

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 米中通商協議や、大阪で開かれる「G20サミット」(20カ国・地域首脳会議)での焦点化を避けるための判断とみられる。

 民意を無視して改正案を成立させれば国際社会から孤立するだけなく、米国の介入を招くことになるからだ。

 一連の経過を通して明らかになったのは、香港の人々が改正案の成立を危惧し、「延期」ではなく「撤回」を求めている、という動かしがたい事実である。

 完全撤回で一国二制度の内実を堅持してもらいたい。