社用車を運転して外回りしていた営業時代、殺虫剤で知られる「金鳥」のラジオCMを聞くのが楽しみだった。関西の片田舎で中学生の男女が繰り広げる、連載形式の恋物語。話の合間に、必ず金鳥の製品が登場する。「ここで出すのか」と笑えるひねりがあった

▼こちらは対照的。メガネ型拡大鏡「ハズキルーペ」の直球すぎるテレビCMが、広告業界で話題だ。大物俳優を多数、起用し、60秒の長尺で「ハズキルーペすごい」「ハズキルーペ大好き」と連呼する

▼あからさまな自画自賛は、広告制作者の間でタブー視されてきた。写真撮影で「はいチーズ」と声をかけ、にっこりさせる演出になぞらえ「ニコパチ」と呼ばれる

▼出演者が、お尻で製品を踏んで頑丈さをPRする場面もある。一般的には自粛しそうな演出だが、一連の構成は広告主であるメーカー会長が自ら企画したという。CMプランナーの権八成裕さんは「異質で、突き抜けた表現」と評する

▼CMは世相の反映だ。バブル期に「24時間戦えますか?」という栄養ドリンクのCMが人気を集めた。働き方改革が重視されるいまなら、即座に炎上するだろう

▼社会を見渡すと「ニッポンすごい」「ニッポン大好き」と自賛し、近隣諸国を罵る書籍や言論が目立つ。ハズキルーペの突き抜け方が、令和の世相と表裏一体に見える。(吉田央)