◆アクロス沖縄(112)グラフィック・レコーダー 上園海さん(24)=那覇市出身

「聴覚障害のある学生へのノートテイク(文字通訳)経験が役立った」と語る上園海さん=東京都内

 会議や研修などで交わされる議論やアイデアを、イラストや図式、文字を用いて可視化するグラフィック・レコーダーとして、大手企業から依頼が殺到する。「自分の揺るぎない武器が欲しかった」。その決意は自らの生い立ちから生まれたものだった。

 とある企業のマーケティング研修会。次々とスクリーンに映し出されるスライドの横で、黙々と大判模造紙にペンを走らせる。登壇者の発言を整然と体系化し、結論までの要点をまとめていく。

 カラーマーカーを使い、イラストや似顔絵を盛り込んだ“作品”は温かみにあふれ、終了後は記録に残そうと参加者がスマートフォンを構えた。「役割は会議の促進とかじ取り。自分の仕事を通して、新たな視点や問題提起が生まれることが何よりもうれしい」

 小学6年生の時に両親が離婚。弟や妹とともに女手一つで育てられた。「母に心配かけないように」と、学校でも明るく振る舞った。しかし、高校入学後に国の難病指定を受ける免疫疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)を発症。入院生活を余儀なくされた。

 投薬治療を受けながら感じた将来への不安。「やりたいことはできるうちにやろう。そのためにもお金で選択肢の制限を受けたくない」。退院後は昼夜アルバイトを掛け持ちして資格習得や大学進学の費用100万円をためた。「自分の力だけで賄えたことは大きな成功体験。お金へのコンプレックスが消えた」

 大学ではマーケティングや福祉分野を学ぶ傍ら、教育系学生ベンチャーの一員として企業と協働。プロジェクトや会議を活性化させる「ファシリテーション」に携わるなど、起業精神を培った。

 そんな時、日頃から夫婦間の相談に乗っていた中学時代の親友から連絡が届く。「夫に殴られた」。送られてきたのは青あざが残った腕の写真。悲しい気持ちと同時に自分の無力感に襲われた。「助言も解決には至らなかった。人の役に立てる武器が欲しい」。

 模索する中、出会ったのは課題を可視化するグラフィック・レコーディングという手法。「グラレコがあれば家庭内暴力を防げたわけではないけども、今は私にしかできない方法で人を笑顔にできる」と胸を張る。

 大手芸能事務所やIT企業を中心に全国から依頼が寄せられ、社内講座は2カ月待ちの人気ぶり。「今後は親子間の対話に役立てるなど教育分野に波及させたい」。優しく柔軟な発想は無限に広がり続ける。(小笠原大介東京通信員)

 【プロフィル】かみぞの・まりん 1995年、那覇市生まれ。那覇商業高校を卒業後、沖縄国際大産業情報学部在学中に、教育系ベンチャーでファシリテーションを学ぶ。その後、独学でグラレコを習得し、現在は東京を中心に実施。IT企業や大手芸能事務所など多数のクライアントを抱える。9月1日に念願の沖縄でのグラレコ講座を開催予定。詳細はツイッターで発信中。ツイッターアカウントは@_okinawaa